日本人アイデンティティの社会言語学的考察 - 東京カレッジ

日本人アイデンティティの社会言語学的考察

細川 尚子

本研究の主な目的は、言語とアイデンティティの関係を社会言語学の観点から、特に、ますますグローバル化する世界における多様性の進展という文脈で検討することにあります。メディアテキスト分析を用いて、反復される言葉遣いや表現に帰属意識がどのように表れているのかを探ります。関連するさまざまな事例研究を検討しますが、私が特に関心を寄せてきたのは、語彙借用の現象と、現代日本における外来語の使用に対する一般市民の考え方です。

日本語は古くから多数の語彙を他の言語から借用してきました。なかでも西洋等からの近代以降の借用語は「外来語」と呼ばれています。外来語の使用は、現代日本で議論の多いテーマであり、国際化のプラス面の表れだと評価する見方もあれば、日本語の腐敗だと批判する見方もあります。本プロジェクトでは、外来語の使用に関する議論を詳細に分析し、外来語という概念が「他者」の役割を果たす中で、言語が国家アイデンティティの象徴とみなされるプロセスを研究します。

私はこれまでに新聞記事からの抜粋2500件以上についてテキスト分析を行い、次のようなことを示唆しています。

1) 外来語の使用をめぐる議論には、水に関係する2つの比喩表現「氾濫(inundation)」と「吸収(absorption)」がよく出てくるが、それらは、外来語の使用が増加している状況に対して対照的な見方を表している。

2)「氾濫」は外来語の野放しの使用に対する懸念やおそれを表し、「吸収」は、外国の要素を抑制的に取り入れる日本語の活力に対する信念を表す。

3) 外来語の使用をめぐる議論をとおして、反対派も賛成派も言語には「国内の」要素と「外国の」要素があると考え、外来語は日本語の外側にあるものと捉えている。

4)外来語は、日本語の世界で感じられる他者性を表すものとみなされている。したがって日本語の語彙は概念上、「日本語」と「外来語」に象徴される言語上の「自己」と「他者」に二分されている。

外来語に対するこうした見方が、移民の増加、最近のパンデミックへの対応、情報メディアの多様化、外国語教育の動向など、日本社会の現在の課題とどのように相互作用しているのか、研究を続けます。

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