コロナ危機下の東京カレッジ - 東京カレッジ

コロナ危機下の東京カレッジ

2020.05.27

2020年4月は、東京カレッジにとって記念すべき月になるはずでした。設置後2年目に入り、新たに味埜俊特任教授を迎えるとともに、フレッシュな特任助教、ポスドク研究員、特任研究員が多数赴任することになっていたからです。また、海外からの招聘研究者も4月、5月だけで新たに4名を迎える予定で、私たちは学内での共同研究や公開講演会などの活動を本格的に展開しようと張り切っていました。また、2年目の初めにみんなで記念撮影をすることも楽しみでした。新しい人たちがたくさん増えた活気を記録しておきたかったからです。しかし、コロナ危機のためにその目論見は大幅な修正を余儀なくされました。
すでに3月の段階で、公開講演会の開催を見合わせていましたが、招聘研究者の訪日延期が相次ぎ、4月以後に予定していた公開のイベントはすべて延期となりました。4月7日に緊急事態宣言が出されて以後は、教職員のキャンパス入構が厳しく制限され、結果として、新しく赴任した人たちと直接お話しすることもできないままに、スタッフは全員が在宅で勤務することになりました。
しかし、この在宅勤務は当初予期していなかった副産物を生みました。カレッジに所属する研究者が一堂に会するオンラインの研究会です。記録を見ると、4月3日に第1回の会合を持ち、今日(5月27日)までに13回の研究会を開催しています。さらにこの後5月末までにあと2回予定が入っています。大型連休が間に挟まったことを思えば、これは相当なハイペースです。研究会の内容は、2月から続けているアイデンティティに関する研究会、コロナ危機について考えるコロナ・フォーラム、そして、新しく加わった研究者の研究紹介などです。最初は2週に一度くらいの割合でと考えていたのですが、どうしてどうして。皆さんが積極的に報告を買って出てくれ、今では週に2回の開催となっています。
ドイツのチュービンゲンに一時戻ったところ東京に帰ってくることができなくなったEschbach-Szabo先生や、上海に足止めされている佐野副カレッジ長も、オンラインなら簡単に会議に出席することができます。皆が「巣ごもり」状態となっていることもあり、現在カレッジに所属している研究者の大多数、15~16名が常時この2時間に及ぶオンライン会議に参加しています。

この4月まではほとんど互いに接点がなくまだ実際に会ったことがない研究者たちによる研究分野を越えた、率直、真摯、建設的かつ友好的で興味深い意見交換の輪に加わることができたことは、私にとって本当に大きな幸運であり喜びです。文系の研究者が多いとはいえ、その専門は言語学、歴史学、人類学、社会学、経済学、地域研究など様々ですし、議論には物理学や環境学の研究者もしばしば飛び込んできます。アイデンティティやコロナ危機は、それ自体が分野横断的なテーマなので、このように活気のある面白い研究会を続けることができているのでしょう。
6月に「コロナ・フォーラム」と題して東京カレッジが実施する予定の3つのイベントの企画は、この研究会での議論の中から自然と生まれてきました。詳細は順次このウェブサイトやSNSなどでお知らせしますが、第1回のイベントは、6月2日(火)の国際ラウンドテーブル“Living through a Pandemic – Reassessing the Covid-19 Crisis around the World -”です。
このラウンドテーブルについてもうれしいことがありました。昨年度東京カレッジを訪れ講演をして下さったBill Emmott, Svante Lindqvist, Park Cheol Heeの3人の先生方に加え、今秋東京カレッジにいらっしゃる予定のJeremy Adelman、現在東京カレッジに所属しているViktoria Eschbach-Szabo, 星岳雄の各先生が、コロナ危機を国際的な場で議論するラウンドテーブルに出席頂きたいという私の依頼を快く承けいれて下さったのです。本当にありがたく思っています。この催しは、いわば国際的な東京カレッジファミリーの集いでもあります。
昨年度は、大学キャンパスの会場を使っての公開講演会がカレッジと一般の方々との主な接点でした。コロナ危機によってその方法が使えなくなり、どのようなアプローチをとるべきか、この2ヵ月ほど私たちは色々と考えてきました。オンラインでの講演会やシンポジウムは、その一つの解答です。これらは東京カレッジとしては初めての経験で、技術的に不安がないわけではありません。しかし、新鮮で興味深く意味のある知をできるだけ早く学生や一般の方々にお届けしようとすると、現状ではこの方法が一番だと考えました。
特任研究員の王雯璐さんの超人的な努力で、葛兆光先生の講演ビデオが完成し、すでにウェブ上で公開されています。6月8日(月)には、葛先生と杉山清彦先生(総合文化研究科)との対談をオンラインでお届けする予定です。コロナ・フォーラムやこのオンライン対談を視聴して下さった皆さんの反応を見ながら、今後はさらにいくつか別の可能性に挑戦してみたいと思います。
というわけで、この2ヵ月は、私たちにとっては、コロナ危機による「うれしい誤算」が相次ぎました。2020年4月は、当初考えていたのとは違った意味で、とても重要で記念すべき月になりました。2年目を迎えた東京カレッジへの皆様のさらなるご支援をどうぞよろしくお願いします。

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