UT7と東京カレッジ—インタビューの舞台裏 (前編) - 東京カレッジ

UT7と東京カレッジ—インタビューの舞台裏 (前編)

2024.01.23
Tokyo College Blog

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執筆者  LI ChunyanLaur KIIKCintia KOZONOI VEZZANI

「UT1000! いつかそういう名称になるかもしれない!」。UT7という名称の由来を尋ねると、野地博行教授からそんな答えが返ってきました。UT7は、野地先生が東京大学の6人の教授とスタートさせた刺激的な研究プロジェクトです。すでに一人増えて総勢8人となり、野地先生の取り組みの勢いのおかげで、参加者はいずれ1000人に膨らむかもしれません。野地先生がUT7という名称の由来について話してくださったのは、私たち3人(Chunyan, Cintia, Laur)が本郷キャンパスにある野地研究室の見学を終えて靴を履いている時でした。私たちはこのほかにも好奇心についていろいろと質問しましたが、残念ながら、私たちだけが聞くことができたお話もたくさんありました。インタビューを終え、カメラをしまった後の発言だったからです。そこでここでは、2023年10月から11月に行なったUT7教授陣へのインタビューに加え、こうしたこぼれ話もご紹介できればと思います。まずは、各先生へのインタビューに先立って、私たち3人は野地先生を囲んでUT7について、学際的研究や研究活動の将来について、そして、日本の研究環境についてお話を伺いました。

UT7はさまざまな分野の研究者が集まり、「純粋な好奇心」に基づいて研究活動を進めようとするもので、この取り組みについて知るには野地博行教授と会うのがいちばんです。特に近年、学問の世界では「純粋な好奇心」から研究を始めることはそう多くはないかもしれません。野地先生はまず工学、生物学、物理学専攻の教授陣とともに、「生命」と「日常生活」といった既存の概念を再考すべく対話を始めました。私たちが野地先生にたずねた最後の質問は、文化・芸術活動は先生の思考に役にたつかというものでした。先生は純粋科学と美術の類似点を挙げ、東京にいくつもある素晴らしい美術館を訪ねる楽しみについて話されました。そして、カメラ撮影が終わった後に、サッカー好きであることを付け加えられました。日本代表チームのサポーターであるばかりか、ご自身もあるチームでサッカーをされているそうです。私生活に関するこのお話は、身体を動かしてチームスポーツに取り組んでいることが野地先生の研究姿勢を形づくっていることを示していて、聞くことができてよかったと思いました。研究室内の調和を保つことに始まり、この新たな共同プロジェクトUT7の推進に至るまで、野地先生の活動にはチームワークが不可欠です。

インタビューを終えると、先生は研究室を案内してくださいました。明るい色にあふれる研究室には、文字と方程式がびっしり書き込まれたホワイトボード、冷蔵庫、コンピューターがあり、そして研究熱心な学生たちがいて、驚くばかりの空間でした。先生は大学院生の一人に研究プロジェクトを紹介するように言いながら、「この研究はすべて彼自身の好奇心に基づいてやってるんですよ」と楽しげな口調で話してくださいました。明るい部屋から暗い部屋に移動すると、そこには顕微鏡と眩しいモニターがいくつもありました。そこで私たちは個々の細胞のさまざまなメカニズムについて興味深い話を聞きました。ミトコンドリアはかつては独立した有機体だったが、後に細胞に組み込まれてどうにか存続しているだけでなく、共生関係を築いているそうです。先生が好きな実験手法について尋ねると、白紙のページにゼロから一つずつ記録していくことがお好きだという返答でした。ヒトゲノムの解読がいかに複雑で難しいかについても説明くださいました。先生によると、DNAが言語の生きた記録として機能するという意味において、DNAはテキストにたとえられるそうです。私たち自身の細胞のとてつもない多様性は、生命が今に至るまでに繰り返さざるを得なかった試行錯誤を思い起こさせます。私たちが何の制約も受けず好奇心のおもむくまま、自分の潜在能力を実現する可能性を追求するとき、生命自体がその方向へ導いてくれるのです。

インタビューの内容について詳しくは以下をお読みください。動画のハイライトとふるやまなつみさんの素敵なイラストもお楽しみいただけます。

 


対談1 

登壇者 野地 博行 (工学系研究科 応用化学専攻 教授)

対談者 LI Chunyan, Laur KIIK, Cintia KOZONOI VEZZANI(東京カレッジ)

「UT7」(いずれはUT1000!)対談シリーズ第1回の登壇者は野地先生でした。キャンパス内の古めかしい建物(内部は最近改装)にある野地研究室に私たちは招かれました。ラウンジは、観葉植物と木製の調度を配した自然な雰囲気のオープンスペースになっていました。おそらく落ち着いた環境だったからか、野地先生がにこやかだったからか、第1回インタビューに対する私たちの不安は吹き飛びました。撮影班の準備が終わらないうちに雑談を始めると、「そういう話はインタビュー本番にとっておいたら」と、羽田先生に笑顔で指摘されてしまいました。

「開かれた心のために開かれた空間を(Open space for open minds)」というのが野地研究室の設計コンセプトと言ってよいかもしれません。日常生活で経験し、目にするものに不確かな要素、未知の要素があることを受けとめ、そうした好奇心を研究の動機に変えることが、野地研究室では研究活動を押し進める「酵素」となっています。ふるやまさんのイラストに描かれているように、野地先生の研究は細胞内の「エネルギーのメカニズム」を分析し、酵素がエネルギーの合成と変換をいかに担っているかを解明しようとするものです。これらを知覚することはきわめて困難のように感じますが、この地球上(もしかしたら宇宙!)のあらゆる生命に不可欠なものです。野地先生が自身の研究領域をどのようにとらえ、どのような研究をされているのか、もっと知りたいと思いませんか?動画はこちらからどうぞ


対談2 

登壇者 上田 泰己 (大学院医学系研究科 機能生物学専攻 教授)

対談者 Cintia KOZONOI VEZZANI (東京カレッジ)

上田先生がZoomインタビューを土曜日の早朝(英国時間午前7時!)に設定されたのがとても印象的でした。それは先生の研究姿勢のあらわれであり、オックスフォード大学でのサバティカル期間中の多忙なスケジュールにもかかわらず、時間を割いてくださった寛大さを示してもいます。上田先生は睡眠を支えるメカニズムを研究されていて、そこではスケジュールと日課が重要な要素となります。ふるやまさんのイラストにあるように、私たちの体内時計は、上田先生が解明しようとしている現象のいくつかの層の一つにすぎません。そうした現象が上田先生を生命における最大の神秘の一つ、つまり、意識とは何かという問題に向かわせています。イラストに描かれた先生の研究は、一つの疑問が開かれたドアとなって、私たちが関心を寄せ分析するに値する複数の神秘の探求につながっています。インタビューの中で先生は、既知のことに限らず、まだ知られていないこと、解明されていないことを重視したいと話されました。睡眠と意識に関する上田先生の考察について詳しくはインタビュー動画をご覧ください


対談3 

登壇者 杉山 将(大学院新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 教授)

対談者 Cintia KOZONOI VEZZANI (東京カレッジ)

杉山先生は自転車でキャンパスまで来られ、このインタビューのために急いで喫茶店に駆け付けられエネルギーいっぱいのご様子で、温かいブラジル産コーヒーを一杯召し上がりました。研究室にはコンピューターが並んでいるばかりで他に見せられるものはたいしてないから、別の場所で話した方がいいと思ったんだと、笑いながら話されました。けれども、ふるやまさんのイラストに描かれているように、先生がコンピューターでされていることを聞いて、対談はとても興味深いものになりました。先生の仕事は、コンピューターに学び方を教えることだそうです。これは、コンピューターに数値を与え、問題解決に役立つ数学的ツールボックスをつくることを意味します。つまり、機械学習には人的要素が必要であり、また、世界のAI(人工知能)研究の拠点として日本が重要な役割を果たしているということでもあります。この研究の進展は国際的連携に支えられており、杉山先生は機械学習の外交官と言えそうです。インタビューを行なったとき、先生は世界を旅して帰国されたばかりで、刺激に満ちた新たな研究連携への熱い思いを語られました。杉山先生の研究について聞きたいと思いませんか。動画はこちらからどうぞ


対談4 

登壇者 後藤 由季子(薬学系研究科 薬科学専攻 教授)

対談者 Cintia KOZONOI VEZZANI (東京カレッジ)

後藤先生は目を輝かせながら、細胞間コミュニケーションの分野での共同研究の成果を語ってくださいました。私たちお互いが好奇心に突き動かされた研究者であり、専門領域を広げたいと願っていることがすぐにわかりました。後藤先生の関心は、細胞がいかに情報を伝達し合い、周囲の世界を知るのかを解明することにあります。先生の明快な説明は、確かに私に情報を伝えてくれました。話を聞きながら、私は自分の体内の数兆個もの細胞について考えていました。すべての細胞がシグナルを伝達し合い、意志決定をし、環境に反応していて、それはまるで、私がこれまでまったく意識したことのない未知の情報の壮大なオーケストラでした。イラストに見られるように、後藤先生はこの微視的な世界の案内役とも言え、そこには私たち自身の相互作用を可能にする無数の相互作用があるのです!先生の研究について詳しくはインタビューをお聞きください

後編へ続く

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