離任インタビュー:ポストドクトラル・フェロー Eureka FOONG - 東京カレッジ

離任インタビュー:ポストドクトラル・フェロー Eureka FOONG

2022.07.21
Tokyo College Blog

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7月に東京カレッジのポストドクトラル・フェローを退任したEureka FOONGさんにお話を伺いました。

東京カレッジでの活動と成果を聞かせてください。

着任インタビュー以降、オンラインワークの研究に関する目標をいくつか達成できました。まず、東京大学大学院情報理工学系研究科(葛岡英明教授)とNTTコミュニケーション科学基礎研究所(山下直美特別研究員)から多大な研究助成と指導を受け、バーチャルエージェントがオンラインビデオ会議からの退出に及ぼす影響を探る異文化間実験を、180人の協力者を得て行いました。その結果、バーチャルエージェントを使うと、日本人ユーザーもアメリカ人ユーザーもオンライン会議から早く退出する際に、他の参加者にあまり不愉快な思いをさせないようですが、ビジュアルキューだけを使い、会議を妨げないような設計が必要であることがわかりました。この研究結果は、できれば来年末までに発表する予定です。

カーネギー・メロン大学(Laura Dabbish博士)からも研究助成と指導を受け、研究チームを立ち上げ、女性フリーランサーがオンライン交渉で抱える問題を調査研究しました。13カ国30人以上の女性オンラインフリーランサーから話を聞いたところ、女性はオンラインでの報酬引き上げ交渉に消極的であることがわかりました。他の人たちは同じような状況にどう対応してきたのかとまず考え、自分の価値をオンラインでうまく伝えられないのではないかと不安を感じるからです。そこでGigPrepというウェブアプリを開発しました。提案書のサンプル書式を使って、自分の価値をクライアントに伝えることができます。このウェブサイトはまだベータ版です(gigprep.herokuapp.com)。この研究成果も来年末までに発表したいと思っています。

そのほか、日本人研究者と協働するという目標も実現できました。赤藤詩織さん、Michael Faciusさん、宇田川淑恵さん、それに素晴らしい東京カレッジイベントチームの協力を得て、合計6回の国際女性デー・イベントシリーズのホストを務め、学術界と産業界の研究者に話を聞きました。国内外から数百人が視聴してくれました。また大変うれしいことに、東京大学講師として外国人留学生を含む学部学生向けセミナー「地球と人間社会」で話をしました。さらに、東京大学グローバル・インターンシップ・プログラム(UGIP)グローバル・ワークショップに登壇者として参加し、葛岡教授にお招きいただきCyber-Interface Labのメンバーとしても学生に話をしました。

今後はチューリヒのYouTubeで仕事をされます。どのような職務を担われるのか教えてください。東京カレッジでのポスドク期間はこのポストにどうつながったのでしょうか?

はい、8月にスイス・チューリヒのYouTubeで、ユーザーエクスペリエンス(UX)リサーチャーとして働き始めます。著作権チームとともに、著作権のあるコンテンツの利用について、オンラインクリエイターの体験向上に向けた調査研究をすることになっています。東京カレッジでのポスドク期間は、このポスト獲得に不可欠なものでした。私のこれまでの研究はすべて、これまでの標準的な仕事とは異なるオンラインワークを理解し、改善することを目指してきました。また、こうした研究を行い、複雑な設計プロジェクトを運営して実務経験を積んだからこそ、このポストの有力候補になれました。数千人のオンラインクリエイターのみならず、数十億人の閲覧者に影響する研究を担う機会を得て、わくわくしています。

東京カレッジでの経験について少し話してください。今後のポスドク研究者に何かアドバイスがありますか?

全体として東京カレッジでは、私自身の研究課題を自由に追求できましたし、私の専門外の分野で魅力的な新しいテーマにたくさん出合えました。パンデミックのなか日本に滞在でき、東京大学、より広くは学術界で学際的なパラダイムシフトの先端に立つ研究者集団と共にいられたことも、とても特異な経験となりました。東京カレッジの運営チームは、私が日本で暮らせるよう手助けしてくれた、まさに命の恩人です。研究以外でも世界が大きく広がりました。日本語を学んだり、日本文化に親しんだり、富士山にも登りました。こうした経験はとても貴重なものでした。

東京カレッジは徐々に体制を整えつつありますが、研究者が独自の研究を行う時間と自由が確保されるよう、リーダー陣には積極的な役割を果たしてほしいと思います。自由に研究できることこそ、ポスドク研究者の特権でしょうから。十分な時間がなければ、研究者は働きすぎになるか、自分の目標に集中できないかもしれません。また、東京カレッジは今後もさまざまな形態の共同研究を続けてください。実り多い共同研究のすべてを論文や本にまとめる必要はないでしょう(たとえば、公式・非公式の報告会も有益でした)。最後に、リーダー陣はポスドクの目標とポスドクに期待することをもっと明確にし、透明性のある昇進や意味ある1対1のフィードバックによって、ポスドクの業績を定期的に評価しようとすべきです。私はオンラインワークの研究者として、東京カレッジがいつの日か、多様かつ学際的な研究者の働きと貢献を評価できる、学術界のパイオニアになることを願っています。

今後のポスドク、なかでも日本語話者でないポスドクへのアドバイスとしては、やはり広い心をもち、自分に寛容であってほしいです。そのためには、東京カレッジでの新たなポストと研究課題に対応することに加え、日本での生活に適応する能力が問われます。気力・体力が必要です。研究はある程度独立して進めることになりますので、自分の業績がどのように評価されるのかをきちんと知り、フィードバックも求めましょう。がんばってください!

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