Bookmanさんのこと - 東京カレッジ

Bookmanさんのこと

2022.12.21

2022年12月16日(金)の朝、東京カレッジのポスドク研究員であるMark Bookmanさんが亡くなった。まだ31歳の若さである。この日の昼に報告を受けた私は、あまりに突然のことで、にわかには信じられなかった。その2日前、14日(水)のオンライン研究会で、彼はいつもと変わらない笑顔で鋭いコメントを発していた。

Bookmanさんは、競争率30倍を超えるポスドクの公募に合格して採用され、2021年6月に東京カレッジに赴任した。私は赴任の日に初めてBookmanさんにお会いしたが、車いすに乗って現れた彼は、難病を抱え、幼い頃に心臓移植を受けた人だとは思えないほど、快活で知的好奇心に溢れていた。当日は少し言葉を交わしただけだったが、それでも彼が日本における障がい(disability)の歴史と現状に強い関心を持ち、このテーマに関連する多くのすぐれた研究計画を頭に思い描いていることはたちどころに理解できた。

COVID-19パンデミックが始まった2020年春以来、東京カレッジにおける共同研究の会合は、ごく一部を除いてすべてオンラインで行われている。これは、物理的な移動にハンディキャップのあるBookmanさんにとって、むしろ好都合だっただろう。「高齢化社会」「人文学の未来」「アイデンティティ」、それに研究者の自己紹介など数多く開催される研究会に、Bookmanさんは欠かさずに参加していた。障がいや差別、それに多様性などをキーワードとして語る彼の示唆に富んだ報告やコメント、質問は、私の眼を開かせるものばかりで、本当に参考になった。他の研究者の視点や研究を建設的に批判することは、それほど簡単ではない。しかし、Bookmanさんの質問やコメントの多くは、報告者の視野を広げ、その報告内容に深みと広がりを与えるためのものだった。私は、真摯でありながら温かみのある彼の発言をいつも楽しみにしていた。

研究会やセミナーに参加しただけではない。Bookmanさんは東京カレッジの目指す「社会との知の共有」という目標においても、その行動力を遺憾なく発揮した。オンライン公開の形で国際研究集会「日本における優生学の歴史とその遺産」を開く一方、障がい者運動の先駆者、Judith Heumannへのインタビューも実現させた。Bookmanさんがその問題意識や研究の成果について自らの声で語るこれらの映像は、東京カレッジのYouTubeチャンネルに残されている。貴重な記録として長く保存することにしたい。

Bookmanさんは、次世代のための教育活動にも熱心だった。今年度は、教養学部前期課程の全学自由研究ゼミナールで、"Global Accessibilities: Lessons in Sustainable Development from Japan”という授業を担当していた。また、同じ全学自由研究ゼミナールの授業には、東京カレッジの若手研究者が共同で行う「私ってだれ?アイデンティティ研究入門 Who am I? An introduction to identity studies」があるが、彼はこの授業でも講義を行った。"Have you ever had a disabled teacher? (障がい者の先生に習ったことはありますか?)"という問いかけから始まる彼の授業はいつも非常に印象的だったと出席していた同僚はいう。

私は東京カレッジの責任者として、Bookmanさんから幾度となく問い合わせや依頼、それに提案のメイルを頂いた。丁寧で謙虚で折り目正しく、彼の人柄がにじみ出た文章だった。身体的に様々なハンディキャップを抱えていたにもかかわらず、彼はいつも落ち着いてにこやかで前向きだった。決して我を通さず他の人たちへの配慮を欠かさない高潔な人格者だった。1年半ほどの短い期間だったが、私はBookmanさんと知り合い、同じ時を共有できたことをとても幸運だったと感じている。

Bookmanさんは、大学、日本社会と世界が、すべての人々にとってより生きやすい場となるように精力的に研究を続け、その成果をこれから次々と発表しようとしていた。単著の出版も間近だったと聞いている。彼の死は、東京大学や関連学界だけではなく、広く日本、そして世界にとって大きな損失である。かけがえのない有為な人・研究者・運動家が逝ってしまった。無念でならない。

東京カレッジの研究者たちは、人間として、研究者として、Bookmanさんの生き方と知性から本当に多くを学んだ。その深い恩に報いるためにも、私たちは彼のことを決して忘れず、彼の志を引き継いで、社会的に意味のある研究成果を生み出して行く。

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