動き、集うことが前提の世界 - 東京カレッジ

動き、集うことが前提の世界

2020.04.02

新年度になり、東京カレッジに新しい若手研究者たちがやってきました。特任助教1人、ポスドク研究者1人、それに特任研究員が2人です。5月にはもう一人特任助教が赴任の予定です。本来なら、彼/彼女たちを歓迎し、研究について大いに語り合う懇談会をすぐにでも開催したいところですが、現在の状況はそれを許しません。この3月から5月にかけては、10人近い外国人研究者を東京カレッジでお迎えする予定でしたが、すべて延期となりました。設置から1年が経って人が増えるので、この春からは分野横断的な研究教育と社会貢献活動の本格的な展開を考えていました。しかし、今回のCOVID-19感染拡大によって、計画を大きく見直さねばなりません。大変残念です。

とはいえ、せっかく一流の外国人研究者や意欲溢れる若手研究者が何人も滞在しているのに、現状が落ち着くまで何もしないのは残念すぎます。そこで、身近にあるデジタル技術の活用を図ることにしました。近々にカレッジ所属の研究者間でオンライン研究会を開催します。これはそれほど難しくないはずです。ドイツに一時帰国したところで再来日できなくなっているエシュバッハ先生も参加して下さいます。

一方、専門家による講演や対談、パネル・ディスカッションなど、従来学生や一般の方々を対象に実施してきた多様なイベントは、そのままの形では開催できません。研究員や職員から提案がいくつか出されているので、目下それらの実現可能性を検討中です。オンラインならではの新しいイベントの形も模索しています。状況の変化に留意しながらではありますが、カレッジ所属の研究者や招聘研究者の紹介と重要な研究成果などを、できるだけ早く何らかの形で皆様のもとにお届けできるように努力します。

今回の新型コロナ・ウイルスによる感染拡大は、これまで必ずしも私たちが明確に意識していなかった現代世界の特徴をはっきりと私たちの眼の前に露呈させています。それは、ほとんどすべての社会活動が、人間が実際に動き、集まることを前提に設計されているということです。世界規模での急速なコロナ・ウイルスの感染拡大は、その当然の帰結だともいえるでしょう。目下、人が自由に動けず、集まれないために、航空、運輸業界、旅行業界、飲食業界、スポーツ、イベント業界などの業績が急激に悪化しているのは、ご承知の通りです。

アメリカの大学の友人によると、このままだと外国人留学生の授業料に依存する多くの大学が経営難に陥るだろうとのことです。つい最近まで、海外、特にアメリカ、イギリス、オーストラリアなど英語圏の大学のリーダーたちが強調していた価値の一つは、mobility(動くこと)でした。現下の状況では、それがかえって仇になっているともいえるでしょう。今回の危機が去った後の世界は、私たちが知っているこれまでの世界と同じではありえません。

実際に動き集まることは難しいからサイバー空間上で集まろうと、オンラインの会議や授業、テレワークが一気に広がっています。私もこのところ連日オンラインの会議に「出席」しています。人間はどうしても「集う」ことからは逃れられないようです。サイバー空間はデータの蓄積や分析のために重要なだけではなく、私たち自身の意識や身体の置き場としての役割さえも持つようになってきています。物理的空間とサイバー空間の融合が、今回の危機によってより一層進むことは間違いないでしょう。その先に待っているのは、果たしてどのような世界なのでしょう。物理的に人が動き、集まることを前提に組み立てられてきた社会の構造や政治、経済の仕組みは、どう変化するのでしょう。この危機に際して、ただ眼前の問題解決に追われるだけではなく、私たち一人一人が望むべき未来の世界の姿を見通し、その方向に向かって責任をもって行動することが大切です。

コロナ・ウイルス危機による活動の一時休止は残念ですが、この機会に人々の「集い」を前提として構想された東京カレッジの将来そのものを、人類の未来という文脈に置いてあらためて考えてみようと思います。

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