新型コロナ感染のデータを読む(その1:世界) | 東京カレッジ

新型コロナ感染のデータを読む(その1:世界)

2020.03.31
SANO Masaki
佐野 雅己

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はじめに

世界中でコロナウイルスが猛威を振るっている。致死率がインフルエンザより高く、SARSやMERSよりも低いと言われるこのウイルスの厄介さは、まだワクチンや治療薬が開発されていないだけでなく、無症状の感染者からも感染するために対処が難しいことだ。人類の歴史は感染病との闘いと共存を繰り返してきたと言われるが、グローバル化で人の移動が格段に増えたことが感染の世界的拡大を極度に早めている。また、インターネットの発達がかつてない速さと量で各国の危機的状況をリアルタイムで伝え、その情報に人々は戸惑い、不安が増幅されることで金融市場が影響を受け、次には人の移動が制限されることで、生産や消費、サービスなどの実体経済にも甚大な影響を及ぼし始めている。今回の新型コロナウイルスの感染拡大はあらためて、我々人間が生物としては、か弱い肉体を持ち、生物界の一角を占める一つの種に過ぎないという厳粛な事実を教えてくれる。一方、現代科学では、新型ウイルスの遺伝情報やその変異までも知ることができ、それらの情報をもとにワクチンや治療薬の開発も始まっている。さらには、リアルタイムで発信される感染者数等のデータを読み取り、数理モデルや統計データから今後を予測する試みも始まっている。
何事も予測は難しいが、数理科学に関わるものとして、何か役立てることはないかと考え、現在得られるデータから世界や日本における感染拡大の状況を整理し、予測を試みた。
世界各国における感染者数や死者数の状況、日本については主要都道府県の状況をグラフ化し、比較することで、共通にみられる傾向や個別の振る舞いについて考察した。長文となるため、その1で世界のデータ、その2で日本のデータについて述べた。(その3で数理モデルとその簡単な解説を予定している。)感染者数などの多くのデータは、累積数で表示している。累積数にすることで、曜日など様々の要素に左右される日々のデータのゆらぎを相対的に少なくし、長期的な傾向をとらえやすくなるという利点がある。また、断らない限り、縦軸を対数で表示している。つまり、図では1桁が1目盛りに相当している。感染拡大期でみられる掛け算で増える現象(いわゆる指数関数的増加)の場合は、対数グラフでは時間に対して直線的な増加となるので、感染爆発の開始やその後の飽和時期、終息に向かう減衰時期などが見やすくなるという利点があるためである。(以下のデータは次のソースに基づいている。)
https://github.com/CSSEGISandData/COVID-19
https://www.worldometers.info/coronavirus/

中国と世界の感染者数

最初に、感染の震源地となった中国と中国を除く世界全体の累積感染者数を見てみよう。図1において中国を除く世界中の感染者数の累計(青)と死者数の累計(赤)を見ると2月中旬以降は、日数とともに、ほぼ直線的に増えていることに注意したい。これが爆発的感染の拡大を如実に表している。感染者数は2月20日に1000名を超え、その後は一週間に3倍(10日で5倍、1か月で125倍)というペースで増え続けており、3月29日時点では68万人余りとなっている。足し算ではなく、時間とともに一定の比率の掛け算で増えるとき、縦軸が対数表示だと変化は時間に対して直線的になる。これが指数関数的な増大だ。

一方、中国全土での感染者数は、報告されている感染者数が100人を超えた1月中旬から約1か月後の2月中旬でほぼピークに達し、累積感染者数は飽和している。中国において、直線的(指数関数的)に増えたのは、武漢封鎖が始まった1月23日から約1週間に過ぎない。1月25日から中国国内の実質的な移動禁止措置が発動され、その後、全土にわたる約2か月に及ぶ自宅待機命令が下されたため、約20日間でピークに達した。その後の新規患者数の増加は全体に比べればほとんど僅かである。

図1 中国とそれ以外の世界全体での感染者数と死者数の推移

次項で欧州やアメリカの感染爆発について述べるが、これらの国でもすでに外出制限が始まっているにもかかわらず、依然として世界の合計では感染者数が指数関数で増加しているのは、次々に時間差で新たな国で感染爆発が始まっているためである。感染者数が多い上位16か国(中国、韓国、EU諸国, アメリカ、カナダ、イラン、トルコなど)を合計してみると世界の感染者数の9割を占めており、それらの国の人口の合計は約23億である。一方、それ以外の約50億人の人口をかかえる他の国とは、主としてインド、中国韓国以外のアジア、南米、アフリカ、イラン以外の中東などであるが、これらの国で今後感染が広がれば感染者の総数はまだ一か月以上は増加を続けると考えると、その数はまだ指数関数的に増え続け、4月末頃には世界の感染者の累積は約1億人に達するものと考えられる。死者数について見てみると、死者数を感染者数で割った致死率は感染発生後、徐々に上昇し、国ごとで異なるものの、世界で平均すると現在は約4.6%と高い値を示している。

もう少し詳しく、国別に累積の感染者数をプロットしたのが図2である。グラフの線が多すぎるので、以下では地域ごとに見ていこう。

図2 国別の累積感染者数の推移(日本についてはグランド・プリンセス号を除く。)

欧州とアメリカ等における感染者数

まず、ここ約一か月の間に感染爆発(オーバーシュート)が起きた欧州とアメリカについて見てみる。イタリアでは2月20日頃から急激な増加が始まり、感染者数が100人を超えた2月22日から約10日間は、1週間で約10倍のスピードで爆発が起こった。22日に北部の州の封鎖を決めた約1週間後から速度が遅くなるが、その後も10日間で約10倍に増加する中、3月7日にはイタリア全土に移動制限が行われた。3月29日現在では、増加の速度は遅くなり始めている。

フランスやドイツでは、イタリアより約2週間遅れて感染爆発が始まった。スペイン、フランス、ドイツ、オランダなどのEU諸国では、約2週間以上にわたり、指数関数的増加を続けたのち、外出規制など措置の効果もあり、最近やや増加の傾きが小さくなり始めている。注目したいのは、これらの国の増加率がほぼ同じであり、同じ傾きの直線で増加していることだ。直線の傾きからは、10日間で約10倍の速度で増加していたことがわかる。最初は100人程度の感染者数であったとしても、10日間で千人になり、次の10日間では1万人になってしまう。1か月で千倍というスピードなので、爆発に気がついて対策を始めても効果が出る頃には、感染者が数万人を超えてしまうという事態が各国で起こっているのである。

イギリスやアメリカでは、フランス等よりさらに5日ほど遅れて感染爆発が始まった。イギリスでは、やや増加率が小さいものの、アメリカでの増加率は、EUでの爆発期の増加率よりもやや急激である。データを見ると、1日に約35%の増加が3週間ほど続いた。日数をnとすると、1.35のn乗で増えてゆくので、8日で10倍超という増加率である。疫学モデルの予測によれば、何も対策を取らなければ、感染者数は国民の6割から7割に至るまで増加を続けるが、隔離や自宅待機などの措置により、ピークの感染者数は抑えることができる。中国の例から類推すると、中国と同じ程度の厳しい外出規制をとった場合でも、これらの国々で感染者数がピークを迎えるのは、早くとも2週間後くらいであるが、待機が厳密でない場合は、さらに時間がかかるものと考えられる。

図3 EUやアメリカ、イラン、トルコなど感染拡大が著しい国の感染者数

 

新たに増加が見られる国々(図4:アジア、南米、トルコなど)

中国以外のアジアや南米では、まだ感染者の総数はそれほど多くないものの、増加率でみると欧州やアメリカと同様の速度で増加し始めている国がいくつかある。南米では、ブラジルやチリなどだ。また、図に示していないが、アフリカでも南アフリカなどで増加が早い。

東南アジアでは、比較的早くから対策を取った国が多く、そのために、これまで感染者数が抑えられてきた国が多い。シンガポール、台湾、ベトナムなどである。しかし、これらの国でも感染者数が最近上昇している。これは、感染拡大が続く欧州やアメリカからの帰国者などの流入であったり、シンガポールの場合はマレーシアからの流入と言われている。一方、日本やインドネシア、マレーシア、タイなどでもこのところ増加が続いている。(日本については別途、都道府県別に考察することにする。)中近東では、イランの他、トルコ、イスラエルなどで増加速度が大きくなっている。

図4  新たに増加傾向が見られる国(日本についてはグランド・プリンセス号を除く。)

ピークを過ぎた国

そんな中、すでに感染のピークを過ぎたと思われる国もある。震源地の中国ともう一つは韓国である。これらの国の感染者数の時系列は、終息に向かう過程での道筋がどうなるかを予測するのに役立つだろう。例えば、外出規制などの効果が表れてくるまでの時間や新規の感染者が減少する速度、回復者の増加速度などの情報である。そのため、中国の湖北省以外の地域(香港は除く)について見てみよう。図5では、ピークとその後の減少を見やすくするため、対数グラフではなく、縦軸は通常の表示になっている。未治癒患者数(active cases:感染者総数から回復者数と死者数を引いた数)は、1月25日にかなり厳しい移動制限と自宅待機が発動されてから約2週間ちょっとでピークを迎え、その後は減少を示している。この減少の速さは比較的軽症者が多い場合の回復の速さを表していると考えられる。比較的早期に厳しい移動制限を課した場合の終息過程を表す例として、今後の参考となるデータである。(同じデータを図6の湖北省を含む中国全体でみると、隔離からピークまで20日程度かかり、ピークを迎えてその後は減少しているが、未治癒患者数の減少が遅い。これは、湖北省などでは対応が遅れたため重症者が多く、治癒までに時間がかかるためと思われる。)今のところ推定に使えるのは、中国のデータしかないが、最も早いと思われる湖北省を除く中国の数字が目安になるだろう。2月中旬以降のデータに基づくと、20日で約10分の1になる速度なので、このまま減少すれば、4月中旬には湖北省以外ではほぼ終息となると予想されたが、3月15日以降に再び感染者数の増大が見られている。これらは殆ど留学生や外国人など海外からの流入であると言われている。

図5 終息過程における変化を示す例(湖北省を除く中国での感染者数、回復者数、未治癒者数、死者数の推移)

次に、国別の未治癒患者数(active cases)を人口10万人あたりでプロットしたのが、図6である。韓国(図6の紫色のデータ)では、2月20日頃に大規模な集団感染が確認され、積極的な検査と自宅待機などの効果より、その後ピークから減少に転じている。この間、ピークまで約20日以上かかっている。この後の未治癒患者の減少の速度は湖北省よりは遅く、中国全土のそれよりは早くなるものと思われる。湖北省以外の中国のデータから、厳しい隔離や外出規制が行われた場合、感染者数がピークを過ぎて100分の1程度まで減少するには、2か月から3か月を要すると見られ、中国ほど厳しい措置が取れない国では、終息するとしても3か月以上の時間がかかるものと思われる。これを元に予測すると、イタリアを除く欧州は、ピークまで今から2週間ほどかかり、終息が見え始めるのは早くとも2か月後であるが、中国よりも減少速度が遅いことが予想されるため、さらに長引く可能性もあるだろう。

図6 国別の未治癒者数(active cases)の推移

国別の致死率

次に、死者数を感染者数で割った致死率を国別でプロットしたのが図7である。ばらつきが大きいので死者数が3名以下までのデータはプロットしていない。イタリアやスペイン、フランスでは、致死率が一定速度で増え続けているのが気になる。特にイタリアでは、死者数は当初は感染者数の約7%で推移していたが、現在は約10%を超えてさらに増加している。時間とともに致死率が減少しているように見える国もあるが、その理由は当初は検査数が少なめで死者が増えてから検査数を拡大したために見かけ上の致死率が下がったように見えている。国別でみると今のところ、致死率が3%以下の国が多く、日本では約3%、ドイツや韓国、アメリカでは1.0~1.5%程度、東アジアの複数の国ではさらに低いが、世界全体で平均すると致死率は現在約4.6%と非常に高くなっている。これは、一般に人口当たりの感染者数が多い国ほど、医療体制が対応できなくなり致死率が上がり、それが全体の平均値を引き上げているためである。今後は医療体制が十分でない新興国に感染が拡大することが十分に予想される。世界全体で死者数を減らすためには、できるだけ早期に感染を発見し、拡大を阻止することが最も重要であることをこれらのデータは物語っている。

その2では、日本の都道府県別のデータについて見てゆく。

図7 国ごとの致死率の推移

 

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