第2回 東京カレッジ講演会 「科学のゴシック大聖堂:ノーベル賞と『革命』概念について」講演者:スヴァンテ・リンドクヴィスト氏 - 東京カレッジ

第2回 東京カレッジ講演会 「科学のゴシック大聖堂:ノーベル賞と『革命』概念について」講演者:スヴァンテ・リンドクヴィスト氏

日時:
2019.05.27 @ 13:30 – 15:30
2019-05-27T13:30:00+09:00
2019-05-27T15:30:00+09:00

スウェーデン王立科学アカデミー元会長、ノーベル博物館の創設者スヴァンテ・リンドクヴィスト氏に聞く
「ノーベル賞が科学の発展に関する私たちの見方をゆがめている?」

2019年5月27日、リンドクヴィスト氏による講演会「科学のゴシック大聖堂:ノーベル賞と『革命』概念について」が開催されました。リンドクヴィスト氏は、ノーベル賞授与機関であるスウェーデン王立科学アカデミーでの経験談を交えながら、大聖堂建築の歴史になぞらえ「科学の発展」について論じ、梶田隆章教授(東京大学卓越教授・宇宙線研究所長)と岡本拓司教授(東京大学総合文化研究科教授)と鼎談を行いました。

司会の佐野雅己氏(副カレッジ長)により、東京カレッジと講演会の趣旨が紹介されました。東京カレッジは、東京大学が世界の志ある人達とともに、人類と世界の未来のあるべき姿を考え、その実現に向けて行動してゆく新しい仕組みです。

「革命」が意味するものとは?

リンドクヴィスト氏は、ノーベル賞は科学的な「革命」に対する賞とされていますが、1)特定の科学分野における革命となるような発明に対するものと、2)発見が実際に活用されることによって多くの人々に革命的な変化をもたらすもの、という二つのカテゴリーがあると話しました。また、自然科学者と科学史研究者が使う「革命」という言葉には違いがあり、自然科学者が気軽に「革命」という言葉を使う一方で、科学史研究者は「革命」という言葉を使いたがらないと言います。

科学社会学者は、自然科学者を実証主義的な研究しかしていないと批判し、自然科学者たちは、科学社会学者が無意味なことをしていると批判します。物理学の研究と科学史の研究を両方し、両方の陣営に属するリンドクヴィスト氏は、この状況にジレンマを感じていると話しました。

科学知識の発展への認識の違い

両陣営には、科学知識の発展への認識の違いがあるとし、リンドクヴィスト氏は「過去30年ほどに渡って科学史を決定してきた社会的構成主義者は巨大な大建造物の建築よりも切り取られた個々の石材に関心を持っていた。他方、自然科学者たちは、科学的知識の発展、つまり恒久的な建造物である巨大な大聖堂を、レンガを一つひとつ積み重ねてつくるものであるとみなしてきた」と語りました。

 

人類の寿命が400年あったら・・・

講演の最後に、リンドクヴィスト氏は、ノーベル賞の歴史が比較的浅く、創設から100年あまりという短い時間の中で、科学の発展を恒久的な真実として評価することを問題視し、もし私たち人類が400年生きていれば、「現代の科学的知識が未来永劫真実であるという信念に対してもう少し謙虚な態度を取るでしょう」と述べました。完成したように見える科学の大聖堂も実は不安定な構造物であり、いずれは新しい法則や原則にのっとった建て直しが必要となります。


鼎談

講演会に続いて、リンドクヴィスト氏、梶田隆章氏、岡本拓司氏(東京大学総合文化研究科教授)が登壇しました。

2015年にニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動を発見した功績でノーベル物理学賞を受賞した梶田氏は、「粒子物理学の標準模型は完全ではない、すなわち、標準模型を何らかのかたちで拡張、延長しなければいけないということを示したことが発見のインパクトであった」としながらも、「よりよい理論を現在の標準模型に照らして考えなければいけない」と話しました。

さらに、2002年以降日本のノーベル賞受賞者が科学の分野で大幅に増えたことの理由、ノーベル賞受賞者には12~13歳ごろの体験や教育に影響を受けている人が多いということ、科学者のチャレンジ精神についてなどをテーマに議論が続きました。梶田氏は「新しいものをつくり出す環境はヒエラルキーにのっとった構造であるべきではありません。そういう意味では、日本の大学の制度はまだ改善が必要だと思います。」と語りました。

Q&Aセッション

フロアを交えた質疑応答セッションでは、ノーベル賞受賞者と国籍の関係について、男女のバランスについて、科学の大聖堂を建築する過程においてのアジアからの貢献について、「科学の発展」と人類の在り方について等の質問が多数挙がりました。岡本氏は、ノーベル賞の対象にならないような、目に見えないようなあらゆる人々による努力も人類全般の生存を可能にしていることを忘れてはならない、と述べました。当日は定員を超える参加者が来場し、人類の未来への展望について積極的に意見が交わされました。

 

終了しました
開催日時 2019年5月27日(月)13:30 - 15:30(13:00開場)
会場

東京大学福武ラーニングシアター (情報学環・福武ホール 地下2階)

申込方法 事前申込制。160名(先着順、参加無料)
言語 日本語、英語(同時通訳有)
主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

Upcoming Events

開催予定のイベント

暗黒の遺産に光を:日本における戦時外国人労働者の慰霊碑(講演者:Andrew GORDON教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年4月26日(金)14:00-15:30 JST

戦時外国人労働者の死を追悼する慰霊碑は、遺産に関連する「暗黒」(dark)という言葉の二つの意味を思い起こさせる。歴史上の悲劇的な出来事の追悼と、この歴史についてあまり知られていない、ほぼ隠されている慰霊碑の重要性である。2つの意味で「暗黒」であるこれらの場所で伝えられるメッセージは何か、検討する。

ホモ・サピエンスの起源と台頭(講演者:Jean-Jacques HUBLIN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月9日(木)14:00-15:30

人類の進化は、古代の系統の多様化によって特徴付けられており、さまざまなアフリカの集団が、ホモ・サピエンスの”現代的な”形態の出現を形成してきた。「緑のサハラ」時代に、アフリカの集団の移住が促進されたが、ホモ・サピエンスの拡大と環境要因はほとんど関係がない。ホモ・サピエンスの拡大により、現地の人口が入れ替わり、文化は大きく変容し、結果的に今日も世界の環境を形成し続けているヒトという唯一の種が広がったのである。

グローバルヒストリー史家のアーカイブとは何か?(講演者:Martin DUSINBERRE教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月10日(金)10:30-12:00

本講演では、アジア各地域と太平洋水域を航行した「山城丸」の軌跡を追いながら、19世紀後半、ハワイや東南アジア、オーストラリアで働くために日本を離れた移民たちの生活を革新的な視点から考察する。これらの物語は、入植者植民地主義、労働史、資源採掘に関する環太平洋の歴史研究を新たな方法で結びつける。本講演では、非伝統的な、実物性の高いアーカイブをもとに、グローバル・ヒストリーの記述における方法と記述者の立ち位置に関する重要な問題を取り上げる。

永久凍土を考える(講演者:Sabine DULLIN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月14日 (火)16:30-18:00

本講演では、居住する先住民コミュニティにとって自然で意味のある土地であった永久凍土が、いかに科学的問題として発見されたのか検討する。そして、21世紀初頭、ヤクーツクなど北極圏の準州における主権の模索において、永久凍土がどのように政治的意味を帯びたかを論じる。

「西洋」という虚構とその仮想的同一性:人類学的差異について(講演者:酒井直樹教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月17日(金)14:00-15:30

近現代世界の国際的な景観は、近世における「ヨーロッパ」の出現以来、人類学的差異への投資によって形成されてきた。ヒューマニタスとアントロポスを区別するこの差異は、事実的な規範というよりも、むしろ規制的な理念として人類の行く道を導く予期的なものである。それは、ヨーロッパ/アジア、西洋/東洋、白人/有色人種といった二項対立を統合し、複雑な帰属関係を育む。本講演では、ヨーロッパ文化、西洋文明、有色人種を排除した人種にみられる白人性のアイデンティティ・ポリティクスについて掘り下げる。しかし、真の帰属意識は依然として仮定のものであり、非ヨーロッパ的、非西洋的、非白人的なものとの対比を通してのみ実現される。

21世紀の中央銀行(講演者:Luiz Awazu PEREIRA DA SILVA教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月29日 (水)15:00-16:30 JST

21世紀の中央銀行は、5つの岐路に直面している(1. インフレとその不透明性の再現、2. 気候変動、3. 不平等、4. デジタル金融イノベーション、5. 人工知能)。これまで、中央銀行は課題に直面した際、分析的思考を強化し、適切にリスクを均衡させ、最善の道を選択してきた。現在、中央銀行が直面する新たな課題は、中央銀行がそれらの挑戦的な影響を慎重に特定し、分析する必要があることを示唆している。

日本における同族経営医療法人(講演者:Roger GOODMAN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月30日(木)14:00-15:30

日本では、病院の約80%とクリニックの約90%が私立であり、これらのうち約75%が同族経営である。本講演では、日本の医療制度の運営全体の文脈における同族経営医療法人の発展と意義を説明し、先行研究でまだ明らかにされていない部分に注目する。

ザ・サロン ー 東大教授との対話シリーズ シーズン2

イベント予定対話/Dialogue

2024年6月7日以降毎週金曜日 順次公開(17:00以降視聴可能)

東大の文系の卓越研究者をゲストに迎え、東京カレッジの島津直子教授がホスト役を務める対談シリーズ新企画。専門分野の壁を超えた対話を繰り広げます。
収録はキャンパス内の某カフェで、コーヒーを片手に行われました。隣の席に座った気分で、分野の異なる専門家によるリラックスした会話に耳を傾けてみませんか?
今までにないゲストの新たな一面がみられる、魅力の新企画です。

Previous Events

公開済みイベント

デジタルフロンティアの強化:サウジアラビアのサイバーセキュリティへの道(講演者:Muhammad KHURRAM KHAN教授)

イベント予定共催/Joint Event講演会/Lecture

2024年4月24日(水)15:30-17:00 JST

本講演では、サウジアラビアが企業や個人をサイバー脅威から守るためのICTインフラの取り組みを紹介する。サイバーセキュリティ能力を再評価するサウジアラビアの取り組み、デジタルで安全な経済ビジョンへの投資、地域のリーダーとしてだけではなく、集団的サイバーセキュリティの世界的パイオニアとして自国を位置づけるための戦略的枠組みなどについて議論する。

日本と中国におけるモンテスキュー「法の精神」専制主義問題の受容(講演者:Anne CHENG教授)

イベント予定共催/Joint Event講演会/Lecture

2024年4月18日(木)14:00-16:00

モンテスキューの『法の精神』 (De l’Esprit des lois)から引用された最も有名な言葉のひとつに「中国は専制国家であり、その原理は恐怖である」がある。本講演は、現代の文脈に流されて結論を急ぐ前に、モンテスキューの思想と最も有名な著作が明治日本、そして後期帝政中国でどう受容されていたか考察することを提案する。

想像的体験としての博物館展示(講演者:Leslie BEDFORD教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年4月17日(水)10:30-12:00 JST

博物館は本来、訪問者のためのものであり、展示はユニークなコミュニケーション手段です。分極化が進むアメリカにおいて、展示はどのように多様な公衆の想像力と関わり、同時に人類共通の感覚にインスピレーションを与えることができるでしょうか?

財産権の剥奪は なぜ必要か(講演者:Frank UPHAM教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年4月15日(月)17:00-18:30 JST

世界銀行、アメリカ政府、そして事実上すべての学者が、「財産権は市場経済のインセンティブ構造の中心にある」、「自由で強固な市場は、財産権が尊重される場合にのみ繁栄することができる」という点で一致している。しかし、繰り返されてきた事例はその逆を意味する。急速な経済成長を実現し、成長がもたらす社会的利益を実現するためには、財産権は剥奪されなければならない。

ガンディーと(人権の)体制(講演者:Vinay LAL教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年3月25日(月)17:30-19:00

本講演ではLAL教授は、まず、西洋における「権利」の概念と権利に関する語りの概念の変遷、また、権利に関するガンディーの考え方、権利の概念に関する彼の哲学的、倫理的、政治的疑問、そして人新世に対する彼の予見について説明する。

国際女性デーイベント: 芥川賞受賞作家 村田沙耶香氏を迎えて

イベント予定対話/Dialogue講演会/Lecture

2024年3月18日(月)17:00-18:30 JST

東京カレッジ ジェンダー・セクシュアリティ・アイデンティティ共同研究会は、芥川賞受賞作家 村田沙耶香氏を迎え、国際女性デーを記念したウェビナーを開催します。 小説「コンビニ人間」(2016)で第155回芥川賞を受賞した村田氏に執筆経験やインスピレーションについて聞き、社会におけるジェンダーとセクシュアリティの規範、またそれらが私たちの世界をどのように形作っているのかについて再考します。


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