都市だより(1)都市の密度とは? - 東京カレッジ

都市だより(1)都市の密度とは?

2021.12.23
Rosita SAMSUDIN

この著者の記事一覧

最近、東京に引っ越し、古くからの住宅街である文京区目白台に住んでいる。新米の東京都民となり都会人さながらに、日本の都市の日常生活に対する好奇心から近所を散策することがすっかり私の楽しみになった。

東京は世界でもっとも人口の多い都市に挙げられる(この場合、東京圏を指すことが多い)。しかし東京は、住宅街について言えば、一般に思われているほど密度は高くないのかもしれない。目白台などの住宅街を日々歩いてそのように感じた。

素朴な感覚では、東京の住宅街は全般に密度が高いと思える。緻密に計画され、道はたいてい狭く(車が問題なく右折・左折できるのは驚くばかり!)、迷路のように入り組んでいる。建物は狭い空間に詰め込まれ、単身者用住宅や低層アパートが多い都市景観になっている。これは東京の典型的な高密低層住宅街である[1]

しかし、私が以前住んだシンガポールや北京の高密度住宅街と比べると、東京の住宅街はそれほど密度が高くなさそうな印象を受ける。興味深いことに数字を見ると、東京23区の人口密度はシンガポールよりかなり低いわけではなく(その差は1ヘクタール当たり約14人)[2][3]、東京と北京の都市密度は同じくらいである[4]。都市間、地域間の密度を比較した際のこうした知覚的な誤りは、規模効果が影響しうると言える。特定の地域の密度を定義する際の一貫性のない恣意的な境界線の引き方や、集約された空間データを使用することで、偏りが発生することがあるのだ。とはいえ、密度に対する私の印象は、おそらく数字ではなく私の感覚から来ている。

   

図1.目白台の典型的な住宅街

 

図2.シンガポールの典型的な公営住宅街

 

密度に対する認識をめぐる議論は、地上での感じ方に基づく[5]。言葉を換えれば、密度に対する認識は、都市空間を歩いていて感じるさまざまな側面(建物と建物の間隔、建物の高さ、空の見え方、人の存在など)によって形成される。人がある状況で知覚することがその人の認識を形作るが、このプロセスには当人の生い立ちやものの見方、期待することがさまざまに影響しうる。認知行動療法モデルも、人生のある出来事に対する考え方や判断、行動は、それ以前の出来事に影響されることを強調している[6]。そうした議論は心理学や行動科学の言説にほぼ限られているが、人々と都市空間を関係づけるメカニズムの理解に役立つことが徐々に認識されつつある。Kevin Lynch(The Image of the City)やWilliam H. Whyte(The Social Life of Small Urban Spaces)、Jan Gehl(Life Between Buildings: Using Public Space)、などの研究は、空間認知が都市空間の人間の行動に及ぼす影響に関して待ち望まれていた基礎知識を提供している。

とはいえ、密度の理解に関する認知科学の言説はまだ少ない。密度に対する認識より数字に依拠した研究が多い。このように文献が少ないため、密度が人々に及ぼす影響に対する理解は部分的なものにとどまっている。都市化に限って言えば、高密度化は環境面でより持続可能なモデルだと広く認められているが、高密度になりすぎると、たとえば社会の幸福を脅かしかねない。高密度化は、離れて住んでいる人よりも、近くに住んでいる人たちと社会的関係を作る傾向が強いという近接効果を生み出しうる[7]。それと同時に、高密度は社会的離脱に繋がりうる混雑として認識される可能性もある[8]。したがって、密度を都市空間のハード(量)とソフト(認識・質)の両面から考える必要がある [9]

都市化が急速に進むなか、高密度化が都市計画の柱になっているが、まだ答えが出ていない重要な疑問がいくつかある。数字ではなく知覚面では、何をもって「密度が高い」とするのか。どれくらいの密度を「高い」とみなすのか。こうした疑問に答えようとした研究はそう多くない。それが、都市計画政策や設計提案を一般化する際の課題となっている。しかし、一般化はそもそも可能なのか。少なくとも人々の日常生活の範囲において密度とは何か、私たちは十分にわかってはいないように思える。この分野でのさらなる研究が緊急に必要である。

 

References

[1] Mizuguchi, S., Almazán, J., & Radovic, D. (2012). Urban Characteristics of High-density Low-rise Residential Areas in Tokyo. https://www.researchgate.net/publication/333559877_Urban_Characteristics_of_High-density_Low-rise_Residential_Areas_in_Tokyo. Retrieved on 16th December 2021.

[2] Tokyo’s population density. https://www.metro.tokyo.lg.jp/english/about/history/history03.html. Retrieved on 16th December 2021.

[3] Singapore’s population density. https://www.singstat.gov.sg/find-data/search-by-theme/population/population-and-population-structure/latest-data. Retrieved on 16th December 2021.

[4] Demographia World Urban Areas. 17th Annual Edition: 202106. (2021). In Demographia. http://www.demographia.com/db-worldua.pdf

[5] Tonkiss, F. (2014). The Social Life of Urban Form: Size, Density, Diversity. In Cities by Design: The Social Life of Urban Form. Polity Press. 

[6] González-Prendes, A. A., & Resko, S. M. (2017). Cognitive-behavioral therapy. In Advances in Experimental Medicine and Biology (Vol. 1010, pp. 321–329). https://doi.org/10.1007/978-981-10-5562-1_16

[7] Cabrera, J. F., & Najarian, J. C. (2013). How the Built Environment Shapes Spatial Bridging Ties and Social Capital. Environment and Behavior, 47(3), 239–267. https://doi.org/10.1177/0013916513500275

[8] McCarthy, D. P., & Saegert, S. (1979). Residential Density, Social Overload, and Social Withdrawal. Residential Crowding and Design, 6(3), 55–75. https://doi.org/10.1007/978-1-4613-2967-1_5 

[9] Boyko, C. T., & Cooper, R. (2011). Clarifying and re-conceptualising density. Progress in Planning, 76(1), 1–61. https://doi.org/10.1016/j.progress.2011.07.001

RECOMMEND

お礼 ―素晴らしい人たちとの出会い―

2024.03.29
HANEDA Masashi

東京カレッジは2019年2月1日に生まれました。1枚目の写真は、この日から東京カレッジの兼任となった十倉卓越教授と誕生前後の面倒な事務作業を手伝ってくれた大学本部国際戦略課の職員たちとともに、その記念…


TOP