高齢化と人口減少下での生物多様性 - 東京カレッジ

高齢化と人口減少下での生物多様性

2021.12.21
Marcin Pawel JARZEBSKI

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世界の多くの地域で人口が高齢化し、出生率も低下しており、人口の減少と高齢化が同時に進行している。世界の人口を年齢区分別に見ると、もっとも急ペースで増加しているのが65歳以上である。世界の人口増加は持続可能性をめぐる議論において(山林から農地への転換、食料安全保障など)、つねに重要な論点になってきたが、私たちが今経験していることはこの議論を変える可能性がある。それどころか、社会の高齢化と人口減少によって環境への圧力が低下し、その結果、食料その他の自然資源など生態系サービス提供への圧力も低下するというまったく違った状況を受け入れる必要がある。社会の高齢化は、美的価値、アイデンティティ、インスピレーション、さらには個人の幸福とメンタルヘルスを高める自然環境の力など、文化的な生態系サービスに対する評価も高める。その場合、持続可能性に向けて新たな目標をどのように設定すれば、人口動態の変化と人々のニーズの変化、そしていまだに進まない生物多様性の保護の双方に対処しうるのか。生物圏の一体性は、地球の限界を超えた分野の1つであり、特に遺伝的多様性が高いリスクにさらされている。

高齢化と人口減少に直面するなかで生物多様性の長期的保全と未来社会を構想するなら、前途には大きな課題とともに貴重な機会もあると思われる。私は東京カレッジで、自然保護とそれが持続可能な開発に果たす役割に関して今後可能な方向性を探っている。

自然保護活動に使える財源や人的資源の変化、さらには技術の発展も相まって、現在の自然保護戦略を将来に向けて再考することが必要となる。高齢化と人口減少は、SDG14(海の豊かさを守ろう)とSDG15(陸の豊かさも守ろう)のいくつかのターゲットを達成する機会を提供し(財政上の課題はあるが)、またSDG13(気候変動に具体的な対策を)の達成に向けて機会と課題をともにもたらすと予想される (Jarzebski et al., 2021)。私が思うに、高齢化社会と人口減少は自然保護への従来のアプローチを変えることになろう。

最近の研究で得られた予備的証拠によれば、高齢者はより環境志向の行動をとっている。自然保護活動に自発的に参加したり、自然の中で身体を動かしたりすると、集団としてのアイデンティティが強まり、個人の幸福度が増す。人々、特に高齢者の心身の健康を維持するには、都市部の緑地や手つかずの自然へのアクセスといった生態系サービスに頼る必要がある。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、私たちは自宅での孤独から抜け出せる空間を必要とすることが明らかになった。高齢者は一人暮らしが多く、自然との触れ合いがいっそう必要である。

人口の高齢化と減少が進むなか、気候変動に加え、生物多様性の喪失を完全に止められるとは思わないが、そのペースを鈍化させ、再生のための空間を増やすことはできると思う。

人類の将来の幸福は生物多様性に依存するところが大きく、私たちは人口動態の変化を大きな懸念材料と見るのではなく、人口変動に伴う機会を最大限に生かすべきである。

 

参考論文:

Jarzebski M.P., Elmqvist, T., Gasparatos, A., Fukushi, K, Eckersten, S., Haase, D., Goodness, J., Khoshkar, S., Saito, S., Takeuchi, K., Theorell, T., Dong, N., Kasuga, F., Watanabe, R., Sioen, G.B., Yokohari, M., Pu, J. (2021). Ageing and Population Decline: Implications for Sustainability in the Urban Century, npj Urban Sustainability 1 (17). https://doi.org/10.1038/s42949-021-00023-z

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