地球の限界 – Future Earthを活用して日本からの挑戦を - 東京カレッジ

地球の限界 – Future Earthを活用して日本からの挑戦を

2020.11.25
Tokyo College Blog

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執筆者

春日文子

谷淳也

東京大学未来ビジョン研究センター・客員教授
フューチャー・アース国際本部事務局・日本ハブ事務局長

国立研究開発法人国立環境研究所・特任フェロー

フューチャー・アース・東京ハブ・シニア・アドバイザー

東京大学未来ビジョン研究センター・グローバル・コモンズ・センター・シニア・リサーチャー

地球環境の危機は温暖化だけではなく、また温暖化もエネルギー転換だけでは防ぎきれない。人類社会の持続可能な発展には、生命圏を支える地球システム全体の安定とレジリエンスの維持が必須であり、そのために社会・経済システム全体の大きな転換が求められる。日本でも、地球環境危機と世界の変化に対処するための適切な戦略が必要である。その際に基本となる視点を提供するのが、「地球の限界」である。さらに、その背景にある「地球システム」を理解し、スチュワードシップとしての「社会・経済システムの転換」を考える必要がある。

地球環境は様々な生物物理的プロセスが絡みあう複雑なシステム(地球システム)である。約1.2万年の完新世の間、人類文明の発展を支えてきた地球システムの安定は、人類社会の持続可能性の必須条件である。しかし今、その安定が不可逆的に失われるリスクが高まっている。地球の限界は、気候、生物多様性、物質循環など、特に重要な地球のプロセス(サブシステム)と、その安定を維持できる範囲を科学的・定量的に示す指針である。地球システムの安定には、各サブシステムが 地球の限界の範囲内で安定的に機能するように、グローバルな協調の下、社会・経済システムを根本的に転換させることが必要である。

これは、地球システムの理解に基づく、限られた時間に優先順位の高いアクションをとるための総合的で戦略的なアプローチである。政府、企業など、社会・経済の各主体は、このアプローチの枠組みを理解し土台にすることで、地球と人類社会の持続可能性に真に貢献できるアクションをとることができる。具体的にはエネルギー(脱炭素化)、食料システム(土地利用、農業と肥料、漁業)、循環型経済への移行、都市(環境負荷の少ない生産、居住、輸送の仕組み)などにおける転換が必要である。そして、有効な転換を可能とするのは、国際的な条約や規則を含むガバナンスと、社会の各セクターにインセンティブを与える(あるいは活動に制約を課す場合もあるが)投資や経済のシステム、誠実な対話、さらに、全ての過程にエビデンスを提供する「科学」である。

地球の限界については、さらに多くの科学データを、世界各地に母国語でも存在する文献を含めてより広範に集め、安定な範囲についても、また現状についても、継続的に評価し、更新していくことが必要である。Earth Commissionが、グローバルレベルで科学データを収集、評価、整理した上でユーザー側に提供する役割を担う。この度、未来ビジョン研究センターに設置された「グローバル・コモンズ・センター」とも関連する。一方、各国、各地域では、地球の限界を国、地域特有の条件下で咀嚼するため、固有の科学データを集める取り組みがある。社会・経済システムの転換のためには、人文社会科学の知見、経済を分析予測する知見も必要である。

Future Earthは、研究とイノベーションを通じて、持続可能な世界への転換の促進を目的とする、国際研究プログラムである。自然科学、人文社会科学など学術分野を超えた連携による、研究の統合的成果の発出と、社会の関係当事者(ステークホルダー)との研究計画立案段階からの協働を特徴とする。生態系、海洋、大気化学など地球システムに関わる基礎科学、さらに健康、経済、消費と生産、またリスクガバナンスなどに関わる研究組織は、国際的に広がりを持つ。Future Earthは、幅広い分野の研究成果を束ねることによって、単独の科学分野では創出できない「統合的な研究成果を紡ぎだす」ことを役割としている。国連気候変動枠組み条約のCOPの際には、毎年Earth Leagueと共に「気候科学の10の重要なメッセージ(10 New Insights in Climate Science)」を公表するほか、二酸化炭素排出削減目標を達成するために、各産業セクターがいつまでにどのくらいずつ貢献すべきかのロードマップも発表している。前述のEarth CommissionにはFuture Earthが科学事務局的サポートを提供している。日本では、日本学術会議にFuture Earthに関連する委員会や分科会が設置されているほか、大学や企業、市民団体を含む36機関がフューチャー・アース日本委員会に参画する。さらに、Future Earthの国際事務局の一部を東京大学未来ビジョン研究センターと総合地球環境学研究所に設置している。地球の限界を軸として社会・経済システムの転換を促進するには、これまでにない科学の連携、協力が必要である。同様の手法はSDGsの定量的ゴールやターゲットの設定や達成評価にも活用できるはずであることから、将来の学術的発展も期待される。前述のEarth Commissionには、慶応義塾大学大学院の蟹江憲史教授も委員として参加している。日本からEarth Commissionの取組みをバックアップし、国内でも独自の成果を出すことが、至急求められている。そのためにも、東京大学のリーダーシップとFuture Earthへの参画に期待する。

 

春日文子
東京大学大学院農学系研究科博士課程修了後、国立感染症研究所を経て、2012年4月-2016年3月まで国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長。獣医師。食品安全の研究に携わり、WHO, FAOの専門委員も務める。2011年10月-2014年9月まで日本学術会議国際活動担当副会長。その間、学術会議を中心として、フューチャー・アースの国内推進体制確立に関わる。2015年5月よりフューチャー・アース国際本部事務局・日本ハブ事務局長。2016年4月よりその他現職。

谷淳也
谷淳也は、長年のビジネス界での知識と経験を活かして、サステナビリティ問題に取り組む様々な活動をしている。東京大学・法学部を卒業後、いくつかのグローバル金融機関(東京銀行(現MUFG)、シティグループ、UBS、クレディ・スイス、DBS)で長年勤務した。金融ビジネスから引退後は、知的・精神障害者支援、教育、地方活性化など様々な社会活動に従事してきた。2018年に、ヨハン・ロックストロームとマティアス・クルムによる「Big World Small Planet(邦題:小さな地球の大きな世界)」を石井菜穂子氏および地球環境戦略研究所(IGES)と一緒に翻訳するとともに、サステナビリティ問題に関する活動を開始しました。現在は、フューチャー・アース/東京ハブ、東京大学/グローバル・コモンズ・センター(未来ビジョン研究センター)、世界経済フォーラム/日本カウンシルなど、サステナビリティ問題に取り組む様々な組織で活動しています。

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