「暮らしと仕事のエスノグラフィー シリーズ 研究者」を開始するにあたって | 東京カレッジ

「暮らしと仕事のエスノグラフィー シリーズ 研究者」を開始するにあたって

2020.10.28
SHAKUTO Shiori
赤藤 詩織

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グラフィックレコーディング©Innovation Team dot 池田萌絵

「ワークライフバランスと言われますが、仕事と暮らしは、そもそも別個に独立したものでしょうか?」

 

 コロナ禍は、在宅勤務をニューノーマルにかえつつあります。それは大学の研究者も例

外ではありません。現在、東京大学の多くの教員が、家から授業や、研究を行っています。

 

 そんな中、暮らしの中での仕事の風景が身近になってきました。

 2020年9月15日、家からCNNのインタビューに答える科学者、グレッチェン・ゴールドマンさんのツイッターが議論をかもしました。スーツのジャケットを着てCNNに映るゴールドマンさんはプロフェッショナルそのものですが、実はスクリーンの外は2歳と4歳の子どものおもちゃで溢れていました。インタビュー直前まで子ども達を遊ばせ、時間になって慌ててジャケットを羽織った様子が見えてくるようです。

 

 「正直なところ、こうなのよ」とだけ書かれたゴールドマンさんのツイッターは、共感する人々の間であっという間にシェアされ、1日で30万回以上のリツイート、280万回の「いいね」を集めました。

 「ワークライフバランス」という言葉に表されるように、これまで「仕事」と「暮らし」は

別々のものとして捉えられ、両者のほどよいバランスがめざされてきました。しかし、コロナ禍はその二つをいっきに混じり合わせてしまいました。

 いえ、もしかすると、それらは実のところ常に混じり合っていたのに、ただこれまでの社会構造上、暮らしが仕事に覆い隠されてしまっていたのかもしれません。

 『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』(2020年 大和書房出版)で、漫画家の田房永子さんが社会をA面、B面と分けて説明されたのが話題を呼びました。

社会にはA面とB面があると思うんです。政治経済とか、時間とか、雇用は社会のA面で、裏側のB面は生命とか、育児とか、介護とか、病気とか、障害とかがある… A面には男たちがいて、女たちも最初はこっちで暮らしているんだけど、出産や育児にぶち当たった時、B面にぐーんって行かなきゃいけないんです。男性も病気や怪我で変わるけど、基本的にずっとA面にいられる。女はA面とB面を行ったり来たりしなきゃいけなくて、たとえばB面の病院で「流産しそうだから休んでください」って言われて、A面で会社と折り合いをつけるのに苦労したり。
(引用:『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』)

 

 ゴールドマンさんのツイッターは、まさにA面(左の写真)とB面(右の写真)の二つの空間を行き来する女性の現実を可視化したと言えます。

 A面にある「仕事」は、一般的に、公のもので、完璧で、曖昧さを許さず、多くの場合非凡であることを求めます。そんな仕事の目線からは、B面の「暮らし」は一見プライベートで、散らかっていて、平凡で、時に矛盾し、流動的に見えるかもしれません。

 しかし、家、子育て、趣味、など、私たちが生きる中で大切な暮らしは、仕事と同じ空間で存在し、その在り方にも思いがけない影響を与えています。

 コロナ危機は、女性だけでなく、多くの人にA面とB面を行き来することを強いました。ニューノーマルを模索する今、暮らしの視点から、A面とB面の関係性を見直すことは意味がありそうです。

 今回、これまでのように暮らしと仕事を分けて考えるのではなく、暮らしと仕事が同じ空間と時間に存在して、混ざり合っていることを捉えようと、連続インタビューシリーズを企画しました。現代社会に生きる人々が課題としてきた「ワークライフバランス」という価値観。その根っこにある仕事と暮らしが別々のもの、という理解の可否も含めて、新しい光を当てることができればと思います。

 まずシリーズ第一弾では、私たちにとって身近な「研究者」に焦点を当て、仕事(A面)がどのように暮らし(B面)とつながっているのかについて探ります。具体的には、東京大学内外の著名な研究者をゲストにお招きして、ご自身がお選びになった「暮らし」を象徴するお写真3枚を拝見しながら、東京カレッジの若手研究者が切り取られた写真に入りきらなかった内容に踏み込んでお話を伺いすることで、思いもしなかった「仕事と暮らし」の密接な関係が浮かび上るのではないかと期待しています。

 インタビューの様子や、聞き手が感じた感想は、エスノグラフィーという、主に人類学者がコミュニティ文化を研究するために使う記録方法で書きとめ、東京カレッジブログで発表していく予定です。エスノグラフィーは通常、一つのコミュニティに対して長期観察とインタビューを通して行われますが、この企画では一人一人のゲストに対して観察を行うのではなく、同じコミュニティ(例えば、シリーズ第一弾の場合は研究者というコミュニティ)に属する人々を長期に渡ってインタビューすることで、つながりのパターンを探ります。人類学者は基本的にフィールドに身を置き、研究対象の方々と生活を共にしますが、コロナ禍によりそれが困難な今、フィールドはZoomの画面上に移ります。「研究対象の方々の視点に基礎を置くこと」、「対話から解釈が生まれ、解釈からまた対話が生まれること」など、エスノグラフィーの基本的精神・方法はそのまま残す予定ですが、果たしてこの手法は成功するでしょうか?そういう意味では、今回の企画は、コロナ禍のもとでの新しい研究方法を探る「方法」の実験とも言えます。

 また、未来の働き方や暮らし方を模索する今、大切なのは若い世代の方々の視点です。この企画では、東京カレッジ若手研究者とゲストとの対話に、グラフィックレコーダーとして学生チームの参加も予定しています。同じ対話でも、もしかしたら、東京カレッジの若手研究員が書いたエスノグラフィーと学生チームが描いたグラフィックレコーディングは、全く違ったストーリーを語るかもしれません。その違いが、また世代を超えた新しい発見につながります。

 この「暮らしと仕事のエスノグラフィー」シリーズは来月から連載を開始します。エスノグラフィーと、グラフィックレコーディングで記されるゲストの対話の中から、今一度、暮らしと仕事の関係性について考え直すことができれば幸いです。

 

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