東京カレッジ講演会「『脱戦後』する日本」講師:朴喆熙(パク・チョルヒ) - 東京カレッジ

東京カレッジ講演会「『脱戦後』する日本」講師:朴喆熙(パク・チョルヒ)

日時:
2019.07.22 @ 17:00 – 18:30
2019-07-22T17:00:00+09:00
2019-07-22T18:30:00+09:00

パク・チョルヒ教授による講演「『脱戦後』する日本」が開催されました

2019年7月22日、朴喆熙(パク・チョルヒ)教授(東京カレッジ・ソウル大学国際大学院)による講演会「『脱戦後』する日本」が開催されました。政治学、日本研究が専門の朴教授は、日本の『脱戦後』に注目し、「戦後の続き」でも「戦前への回帰」でもない日本の姿について日本語で講演しました。後半には社会学、カルチュラル・スタディーズが専門の吉見俊哉教授(東京大学)と対談を行いました。

はじめに、司会の羽田正教授(カレッジ長)は、東京カレッジが掲げるテーマ「2050年の地球と人類社会」を紹介し、朴教授の講演が「外から見た日本 内から見た日本」を検討することに相応しいと言及しました。続いて、朴教授は、脱戦後を遂げている日本について、戦後体制を支えた理念、制度、社会的な仕組みの変化という側面から説明しました。次に、日本における失われた20年を変革期と位置づけ、この間に起こった3つの終焉(1.冷戦の終焉、2.高度成長の終焉、3.村社会の終焉)が政治にも大きな影響を与えたと論じました。

戦後を支えていた理念から焦点を移して

朴教授は、脱戦後を「理念的に戦後から決別すること」であると定義し、反社会主義であった55年体制の自民党が、現在は反リベラリズムの政党に移り変わっていったと説明しました。反リベラリズムの傾向が強まる中で、改憲論と歴史問題をめぐる議論の内容自体が変化したと述べました。朴教授は、近年の日本政治に見られる制度的変化と外交政策の変化に注目し、近年の日本では、官邸主導の権力集中型のシステムに支えられ、総裁の権限が非常に強くなっていること、吉田路線という保守本流からの脱皮が図られ、外交安全保障大国としての立場が強調されるようになったことを指摘しました。国際安保と日本の安保が直結し、インターナショナルセキュリティーとナショナルセキュリティーがつながっているという考え方が定着したと言います。

『脱戦後』の日本はどこへ向かうのか

日本が戦前の姿に戻るのではないか、という隣国の懸念に対して、朴教授は、戦後世代の政治家が戦争や植民地に関して抱いている感覚は以前の政治家とかなり異なる、と強調し、「日本はいま帝国主義、軍国主義ではなく民主主義の国であるし、何よりも社会的な価値観のうえでポストモダニズムがちゃんと定着している国なので、昔に戻ることは不可能に近い」と述べました。最後に、朴教授は、脱戦後の日本が直面する4つの課題を挙げました。1.権力に対する牽制と均衡の問題、2.未解決の歴史問題、3.人口減少と高齢化が進み財政負担が増える中でどのように大国の地位を維持するのか、4.格差が広がり不安定化する社会にどのように安定をもたらすのか、という相互に関係しあう課題に向き合うことが求められる日本の姿が明らかになりました。

対談

講演会に続いて、朴教授と吉見教授が対談を行いました。まず、吉見教授は、「戦後」がいつ始まりいつ終わったのか、ということについてはいくつかの説があり、それぞれ戦後という概念の捉え方に違いがあることを説明した上で、中国大陸、朝鮮半島、ベトナムや東南アジアでは「戦後」はどのように捉えられているのか、広くアジアにおける戦後とは何を指すのかという議論を深めていくことを提案しました。続いて、政治の変化と、高齢化やネット社会化という社会的な変化がどう関係しているのか、さらに、平成時代の日本における政治・経済・社会構造の変化が、1970代終わりから大きく変化を遂げた世界全体の歴史(グローバルヒストリーの転換)とどのように関係しているのか、という質問を投げかけました。これをうけて朴教授は、1951~1952年が戦後の始まりで、1980年代後半から1990年代初頭に戦後体制が揺れ始めたという見解を示しました。さらに、対談は、1990年代以降のメディアとマスコミの変化が政治と社会に与えた影響についての議論で盛り上がりました。

講演会は奇しくも参議院選挙の翌日に行われました。朴教授は日本政治の分析を通して、現在日本が直面する問題に切り込みつつも、将来を悲観することなく課題を提案しました。
また、日韓の政治学者と社会学者の対談を通して、世界で同時並行的に起こる変化が政治に与える影響とその反応は、国によって異なることが浮き彫りになりました。一方で、民族や国家という境界にこだわらず利益を追求するグローバル企業の展開も、各国の将来を見据える上で非常に重要な要素であるということが明らかになりました。

終了しました
開催日時 2019年7月22日(月)17:00-18:30(16:30開場)
会場

東京大学福武ラーニングシアター (情報学環・福武ホール 地下2階)

申込方法 事前申込制。160名(先着順、参加無料)
言語 日本語 (同時通訳有)
主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

Upcoming Events

開催予定のイベント

クラウドソーシング・ヘルスケアの未来(講演者:Simo HOSIO教授)

イベント予定講演会/Lecture

2023年10月3日(火)16:30-18:00

人工知能は、近い将来ヘルスケアに革命を起こす可能性を秘めています。本講演では、さまざまなデジタル技術の組み合わせ、メンタルヘルスに関する現在進行中の事例研究、そして、クラウドソーシングを用いた大規模拡張が可能なオンライン実験における文化の違いや人的要因に光を当てたHosio教授のデジタルヘルスに関する研究を紹介します。

現代韓国の文化と民主主義(講演者: KIM Hang教授)

講演会/Lecture

2023年10月24日(火)10:30-12:00

いわゆる"K"を冠した韓国発の文化が日本のみならずグローバルに人気を博している。今回の講演ではこうした現状を、1990年代後半からの韓国における政治・経済・社会変動において理解することをテーマに据える。それにより現代韓国における文化と民主主義の関係、そして何かと荒波が止まない日韓関係を考える際のささやかなヒントを共有するきっかけになることを願いたい。

世界文学と翻訳 「The Bankruptcy」翻訳出版を記念して

シンポジウム/Symposium

2023年10月26日 (木)19:00-21:00 JST (ロンドン: 11:00-13:00; サンパウロ: 7:00-9:00am; ニューヨーク: 6:00-8:00am)

小説「The Bankruptcy」(Júlia Lopes de Almeida著)の新訳は、受賞をきっかけに世界に知られるようになりました。翻訳出版を記念し、本シンポジウムでは、担当翻訳者、編集者、また、研究者らが世界文学の現状とブラジルや日本、そして他国における翻訳が果たす役割を議論します。

Previous Events

公開済みイベント

東京カレッジ&MbSC2030共催 シリーズ 未来の科学技術への取り組み「未来のモビリティ:人間とサービスの関係性について」

イベント予定講演会/Lecture

2023年9月21日(木)15:00-16:30

「Mobility=自由に動けること」は、すべての人々が根源的に希求すること。ウーブン・バイ・トヨタは、人、モノ、情報の3つの「Mobility」の実現を目指す。それは、安全でスマートな、人に寄り添うモビリティをすべての人に届けることである。本講演では、最先端の車両ソフトウェアプラットフォームによる集約型システムについて解説をする。

脱炭素化とサステナビリティのためのエネルギー転換 (講演者:Yiguang JU教授)

イベント予定講演会/Lecture

2023年9月13日(水)15:30-17:00

気候変動や環境の持続可能性に対する社会的関心が高まる中、今後数十年のうちに「化石燃料エネルギー」は、再生可能な電力による「電子エネルギー」へと変化していくだろう。本講演では、再生可能エネルギーの貯蔵や断続的な生産といった課題に対処するための3つの方法: 非平衡エネルギーと化学変換、材料製造、アップサイクルに焦点を当てる。また、脱炭素化と持続可能性の観点から、これらの改革がもたらす利点についても議論する。

インド太平洋地域における抑止力と外交のバランス(講演者: Bill EMMOTT 潮田フェロー )

イベント予定講演会/Lecture

2023年7月25日(火)13:00-14:30(開場 12:30)

「今日のウクライナは明日の東アジアになりうる」と岸田首相は警告している。しかし、これをどのように防ぐことができるのか?日本やフィリピンを含むアメリカの同盟国は、抑止力のネットワークを構築しようとしている。これはどのように外交と結びつけられるだろうか?抑止は同時に挑発にもなりうるのか?本講演では、こうしたジレンマについて解説し、探っていく。

出版記念「複雑な絡まり合いーフィリピン研究」

イベント予定講演会/Lecture

2023年7月20日(木)16:00-17:30

地域研究という分野では、その植民地時代の起源、研究者の視点や立場性と方向性について、時折論争が起こります。Plural Entanglements: Philippine Studiesの出版を記念した本イベントでは、人類学者のDOCOT博士がこうした議論とフィリピン研究の包括性について語り、BARRETTO-TESORO博士が先住民の視点を用いた革新的な章を紹介します。

言語・文化・思考はどのように関係しているか(講演者:今井むつみ教授)

イベント予定ワークショップ/Workshop講演会/Lecture

2023年7月18日(火) 16:00-17:00

本講演では、言語、文化、知覚、認知がさまざまな領域でどのように相互作用しているかについて議論します。講演の最後には、このようなプロセスを経て、文化的アイデンティティがどのように形成されるかを考察します。


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