税制は暗号通貨に対応できるのか - 東京カレッジ

税制は暗号通貨に対応できるのか

2023.05.11

暗号通貨(ビットコインが代表格で、知名度が高い)が大きな反響を呼んでいます。暗号通貨はよく言っても本質的に価値がなさそうで、結局は価値のなさを露呈する運命にあると見る人たちがいます。そして悪く言えば(昨年11月のFTX破綻が記憶に新しいが、驚くべき破綻が起こる)、悪質な輩がしくみをよく知らない投資家に付け入る手段と見られています。ウォーレン・バフェットは以前、世界中のビットコインを25ドルで差し出されても買わないと発言したことがあります。一方、暗号通貨は素晴らしい新世界の到来を告げるもので、人々は今よりも低コストで、しかも金融機関(信用詐欺を働いたり経営が破綻したりもする)や政府を信頼せずとも金融取引ができるようになるという見方もあります。

暗号通貨は衰退するのか、それとも金融エコシステムの中心を占めるのか。先のことはわかりませんが、税制は暗号通貨に対応できなければなりません。現状ではうまく機能していません。それは当然でしょう。現行の課税ルールが定められたころ、暗号通貨を誰も夢想だにしなかったのですから。私が最近、Katherine Baer、Ruud de Mooij、Shafik Hebousと共同で執筆した東京カレッジ・ワーキングペーパーでは、暗号通貨がもたらす税制上の課題を検討しています。

最も根本的な問題は、取引が「プライベートアドレス」(PINのような短いコード)で行なわれ、暗号通貨が「疑似匿名」であることです。そのため、ユーザーが身元を明かそうとしない限り、個人や企業を特定するのは基本的に不可能です。取引が中央集権型の取引所で行なわれる場合、あまりおおきな問題は生じません。標準的な「顧客確認(KYC)」ルールは実際に取引する個人や企業の本人確認を必要としますし、取引を税務当局に報告するというより厳しい要件もあり、それらに従って取引されるからです。多くの国がそうしたルールを定めようとしています。しかし、ユーザーが互いに直接取引したり、分散型取引所を使ったりすると、取引しやすくなる分、事態ははるかに複雑になります。国外の中央集権型取引所が使われた場合も、国内の税務当局は何が起きているのか気づかずにいます。

だからといって、税務当局は無力ではありません。暗号通貨のもう一つの特徴は、透明性が非常に高いことです。すべての取引記録が公開されていて、それを手がかりに調査手法を構築することができます。そうした暗号解析ビジネスを専門とする企業もあります。また暗号通貨のユーザーは、いずれは従来の金融機関で法定通貨に「換金」することを望むかもしれません。するとその時点でユーザーの本人確認が可能となります。

とはいえ、ダークネットなどを用いた明らかに違法な取引が続くのは間違いないでしょうし(増加しているが、暗号通貨取引全体に占める割合は縮小)、直接的な脱税の余地もかなりあります。現時点の脱税の規模を推定するのは難しいですが、今後の動向は、FTX破綻などを受けて、規制を進めている中央集権型取引所(規制が進めば安全性が増すと思われる)の利用が増えるのか、それとも分散型取引所(誰かを信頼しなくてよい)への依存が増すのかに左右されるでしょう。

もっとも、問題となっている所得税収入を大まかに示すことはできます。ただし、暗号通貨は値動きが大きいため、潜在的税収も同様に変動します。暗号通貨ブームが起きた2021年には、暗号通貨取引によるキャピタルゲイン税が世界全体で1000~3000億ドルにのぼった可能性があります。これは規模にすると、世界全体の法人税収の5~10%に相当します。ところが2021年末にブームが終焉して以降、大幅な資本損失が話題になっています。もっと正常な時であれば(暗号通貨については正常といえる時はあまりないですが)、税収は100億ドル程度と思われます。より広い視野で見ると、これはそれほど巨額とはいえません。

しかしながら、税収のほかに、公正性という問題もあります。取引が匿名で行なわれるため、誰が暗号通貨を保有しているのかわかりにくいのですが、株式保有にも増して、比較的富裕な層に集中しているようです。ある推定によれば、およそ1万人が全ビットコインの4分の1を保有しています。したがって、暗号通貨に実効的に課税することは累進課税制度全般にとって重要です。

とはいえ、税収リスクはいたるところで高まる可能性があります。現在のところ、暗号通貨はモノやサービス(少なくとも合法的なモノやサービス)の購入にはさほど使われていません。しかし、暗号通貨の使用がもっと広がれば(「通貨」という以上、まさにモノやサービスの購入を目的としたものでしょう)、付加価値税などの消費税が公正に支払われない恐れがあります。税務当局は長年にわたって、現金支出を計上して課税対象の売り上げを隠す行為を防ごうとし、ある程度の成果を上げてきました。ところが、暗号通貨は現金と同様の匿名性をもち、脱税防止の苦闘を再燃させるかもしれません。しかも税収としては、付加価値税や消費税のほうがキャピタルゲイン税よりはるかに重要です。

これらはかなり複雑ですが、原理的にはわかりやすい税務上の問題が1つあります。たとえば、ビットコインなど暗号通貨には大量のエネルギーを使います(膨大な計算をして数学的な解を求めるため)。その作業はバングラデシュと同じくらい多くの炭素を排出しています。この気候への悪影響に対する最善の対処策は、炭素排出税を一般化することです。それができなくとも、この炭素排出にかかわる「マイニング」に特定税を課すことは可能です。アメリカはまさにこの方向に踏み出しています。

しかし、この分野においても他の分野と同じく、暗号通貨の新たな現実に対応した税制を構築するには、なすべきことがまだたくさんあります。問題は何かを理解することが第一歩であり、私たちのワーキングペーパーもそれを目指しています。

Reference

 “What’s in Your Wallet? The Taxation of Cryptocurrencies.” Katherine Baer, Ruud de Mooij, Shafik Hebous, and Michael Keen. Tokyo College Working Paper 2023.

 

 

 

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