CBAM? 地味な取り組みだが、地球を救うのに役立つかもしれない - 東京カレッジ

CBAM? 地味な取り組みだが、地球を救うのに役立つかもしれない

2022.12.12

欧州連合(EU)は2023年初頭から世界で初めて炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入を開始します。この取り組みは地味で専門的すぎて、たいして話題にならないかもしれません。しかし気候変動に関心があるのであれば、知っておく必要があります。

こうした動きがなぜ重要なのかを理解するために、少し基本に立ち返りましょう。

驚くかもしれませんが、気候変動をいかにして緩和するか、つまり、地球温暖化の原因である温室効果ガス(GHG)排出量をいかにして削減するかは、経済学の問題としてはさほど難題ではありません。経済学者が政治的領域で意見を同じくすることはまれですが、経済活動への悪影響を最小限に抑えて気候変動を緩和する最も重要な方策は「カーボンプライシング」の導入だろうという点では意見が一致しています。カーボンプライシングは、化石燃料(石油、ガソリン、石炭)の燃焼やその他の排出源に対して課税する仕組みです。過度の摂取を抑制するためにたばこやアルコール飲料に課税するのと同じく、社会的に有害な二酸化炭素など温室効果ガス排出に課税すべきだという考え方です。これはおおむねそう難しいことではありません。ガソリン税は誰でも知っていて、きわめてわかりやすい課税の一つですが、炭素税は要するにその延長といえます。

しかし、気候変動の問題は緊急性を増しているにもかかわらず、カーボンプライシングは世界的な取り組みになっていません。対象とされているのは世界の排出量の20%程度に過ぎず、しかも多くの場合、カーボンプライス(炭素価格)が低すぎて効を奏していません。

この政策が成功しない根本的な理由は「ただ乗り」問題にあります。各国は意味あるカーボンプライシングの導入を検討する際、それによって国内価格が上昇し、化石燃料依存産業の国際競争力が低下するといった悪影響が生じることがわかっています。そうすると、地球温暖化抑制の恩恵に主にあずかるのは導入していない国です。国の政策決定者は自国の将来展望ほど世界全体の利益に関心はなく、地球温暖化抑制のコストを誰かが負担してくれることを願い、当然ながら、他国の排出量削減の取り組みにただ乗りしようとします。さらに、自国の温室効果ガス排出産業のコストが増大すると、他国の排出産業が恩恵をこうむって事業を拡大することになり、世界全体の排出量削減効果は結局のところ減じると政策決定者は言いかねません。

カーボンプライシングを進展させるには、このただ乗り問題を克服するか、少なくとも低減する何らかの手立てを見つけなければなりません。そこでCBAMなるものが登場するのです。

CBAMは基本的には、輸入品の炭素含有量に対する課税であり、国内生産者が支払う炭素税に相当します。(輸出品に対する炭素税の還付についてはなお議論があり、EUの計画に含まれていません。)

CBAMは上記の課題に二つの点で対応するものです。第一に、自国の炭素税によって国内企業が外国の競合他社より不利益をこうむらないようにします。第二に、「炭素リーケージ」のリスクを回避します。つまり、支払う税額は同等なので排出量の多い外国企業から輸入する意味がなくなります。これらの懸念が減れば、各国は野心的な炭素税の導入に動くかもしれません。

CBAMの採用にはもう一つ潜在的なねらいがあります。EU域外の国に対してもEUの炭素税率と同水準の炭素税を導入するよう促す可能性があるのです。EU域外の国がEUへの輸出品に対して国内で低い炭素税を課していると、炭素税率の差に応じて関税をとられてしまいます。そうであれば輸出品にEUの炭素税率に等しい炭素税をかけて、その税収を自分の国に留めておく方が得策になるからです

ご想像どおり、これらの問題について、また、CBAMの最適な制度設計の詳細については多数の文献があります。CBAMは世界貿易機関(WTO)のルールに違反しないのかといったような疑問が出されています。また、CBAMは有効なカーボンプライシングへの障害をすべて取り除くものではありません。さらに、ただ乗り問題は低減されるものの、完全に払拭されてはいません。CBAMの詳細な制度設計を考えると、問題はどうしても複雑になります。しかし、政策決定者に有効な気候変動対策をとらせるには、プラカードや抗議活動だけでなく、結局のところ、うんざりするほど専門的で手の込んだ仕組みが必要です。

CBAMのプラス面とマイナス面についてさらに知りたい方は、IMFのイアン・パリー、ジェイムズ・ローフとの共同論文における論評と評価(おおむねプラス評価)をご覧ください。この論文は東京カレッジのワーキングペーパーとして発表したもので、『Fiscal Studies』誌に掲載されています。

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