「家<ホーム>」に帰れない日本の移住者たち | 東京カレッジ

「家<ホーム>」に帰れない日本の移住者たち

2020.12.01
Tokyo College Blog
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上記の写真:Immigration queue. Narita Airport, Japan 6 Dec 2006 | Picture by Icars, flickr.

このエッセイは、OpenDemocracy に2020年11月3日に発表したものを再掲しています。

執筆者

赤藤 詩織 Flavia BALDARI
東京カレッジ・特任助教 東京カレッジ・特任研究員

 

COVID-19によって「家<ホーム>」の概念が一夜にして変わった日本では、トランスナショナルな移住者の生活が大きく揺るがされている。

2019年は、在留外国人と海外在留邦人の数両方が、統計がある1968年以来、最多となり、日本の移民史において、特別な年であった。しかし、翌年日本政府がCOVID-19対策として導入した厳格な入国制限措置によって、この流れに歯止めがかけられた。パンデミックは、移住先の国を「家<ホーム>」とする移住者たちの生きた経験とはかけ離れた、移住者を一時的な状態として捉える政府の考え方を露呈した。この政府の水際対策における「家<ホーム>」の考え方は、パンデミック後の日本における移住労働の未来を見据える上で、どのような示唆を与えてくれれているのだろうか?

ある日突然、日本が「ホーム」でなくなった

日本政府は、2020年4月3日から入国制限を導入し、大多数の国(7月27日時点で150か国)の国籍を持つ外国人あるいは永住者が上陸拒否の対象となった。この措置は、仕事や休暇で一時的に日本を離れていた長期の就労ビザ保持者にも適用された。例外は、日本人または永住者の配偶者・子および「定住者」(「第三国定住難民、日系3世、中国残留邦人等」)のみであった。この措置は常に更新されている。

結果、日本に生活の拠点がある約9万人の在留外国人が、海外から戻れず、立ち往生する羽目になった。この記事の共同執筆者の夫もその一人で、出張先のインドネシアから日本に帰ってきたが、成田空港で足止めされた。彼の職場は日本にあり、東京の自宅では妻が帰宅を待っていた。しかし入国審査ゲートを通ることは許可されず、預けたスーツケースも手元に戻らないまま、ターミナルの床で寝ざるを得なかった。本国送還が提示されたが、そこには帰る場所はない。この夫婦はこの10年間日本で生活し、学び、働いてきた。日本が彼らの家<ホーム>なのである。にも関わらず、彼は家<ホーム>に帰ることを阻まれた。

パンデミックによって、突如「家<ホーム>」の意味が変わり、トランスナショナルな移住者の生活が大きく揺るがされた。日本政府が出入国の制限を開始してから5か月以上が経過したが、日本で生活し、働き、家族を持つ在留外国人であっても、その多くが未だ入国を阻まれたままだ。ソーシャル・メディアを使ったキャンペーンが展開されてようやく、日本政府は、9月1日から在留外国人が再入国できるよう、入国制限の緩和を始めた。しかし、その手続きは容易とは言い難い。申請が受理されたとしても、再入国にあたり厳格な手順に従う必要がある。そこには、事前にCOVID-19の検査を受け、それが出国前72時間以内に受けた検査だという証明書の提出などが含まれる。このような措置によって、日本を出入国する人の動きが元どおりに回復するかどうかを見極めるには、まだ時期尚早だ。

このような出入国管理政策によって、移住者たちの生活の実態と、政府の認識———在留外国人は、一時的な存在、使い捨て可能な労働者であり、彼らの「真」の家<ホーム>は外国にある———が乖離していることが露わとなった。実際のところ、高技能か低技能に関わらず、移住労働者が数年ごとに居住国を変えることは珍しいことではない。また彼らの職業は、頻繁な移動を伴う性質であることが多い。このパンデミック時の出入国管理政策が指し示すのは、このように移動性の高い労働者が日本を「家<ホーム>」とし、ひいては帰郷する場所を日本とすることができる唯一の道は、日本人または永住者との婚姻ということだ。それ以外の関係———同性カップルや外国籍の人との家族関係は含まれない。

法改正の要請が強まっているにも関わらず、日本では同性婚は認められていない。2015年、東京都の渋谷区が「同性パートナーシップ」を認めた。法的拘束力はないが、同性カップルの権利を求めていく上で重要な一歩だ。そこには、例えば、入院しているパートナーと面会する権利やアパートを共同名義で借りる権利などが含まれる。渋谷区に続き、現在では57の自治体が同性パートナーシップを認めている。

翻ってみると、出入国管理政策が内包する家<ホーム>の概念は、異性愛や自民族中心主義が反映された、かなり限定的な慣行に基づいている。

多くの移住者たちは、婚姻や出産にとどまらないかたちで家<ホーム>を形成している。すでに人類学者らが長年に渡って明らかにしてきたことだが、家族とは、血縁や婚姻だけでなく、共同生活、友情、コミュニティ内での食べ物や物の共有等、様々なプロセスを通じて形成される。このように家<ホーム>を形成していく上で多様な慣行は、20歳から49歳の4人に1人が独身者という、婚姻率が下がり続けている日本社会においてますます重要性を増している。

移住労働の未来

日本は人口動態の危機に対処するために、移住労働者に強く依存している。厳しい入国制限措置の影響は、製造業とサービス業で、即刻現れた。パンデミックによって十分な数の外国人労働者を確保できなかったセクターだ。出稼ぎとみなされる労働者による家<ホーム>の形成が認識されず、将来、その家<ホーム>に戻ることが阻止されるとなれば、果たして移住労働者は、それでも日本に留まり、働き続けたいと思うだろうか。

パンデミック下での移民政策は、私たちの生活の中で、最も親密な領域に影響を及ぼしている。そしてその親密な関係性が、誰の入国を許可するかを選別するという政府の移民政策の中心に据えられている。パンデミック下の入国制限措置における日本政府による「家<ホーム>」の捉え方を批判的に読み解くことは、移住者の未来を再考する上でも、建設的な作業である。

今のところ、日本で家<ホーム>の意味するところは、日本人との婚姻によって獲得する例を除いて、日本国籍と同義である。しかし、このような同一視自体が、国籍、ジェンダー、セクシュアリティによって他者を排除する社会に拠って立つものであって、その排他性は、現代の日本社会では、ますます疑問視されている。移住労働者の日本への道を閉ざさないためにも、政府は出入国管理政策を精査し、一枚岩的な家<ホーム>を捉え直し、いく通りにも存在する、その多重性を認めねばならない。

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