アーカイブ調査とCOVID-19―博士課程大学院生への助言 | 東京カレッジ

アーカイブ調査とCOVID-19―博士課程大学院生への助言

2020.07.30
Michael ROELLINGHOFF
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博士論文の執筆に向けて調査研究に取り組んでいた2016~17年度、私は主たる研究対象地から1500キロメートルほど離れた福岡の九州大学に在籍していました。私の研究テーマは、19世紀日本の北海道の植民地化とそれが先住民アイヌに及ぼした影響であり、北海道になるべく長く滞在することが重要でした。しかし資金が乏しく、札幌まで数回、短期の調査に出かけるのがやっとでした。札幌滞在中は、市内最大規模の歴史文書のアーカイブである北海道立文書館、北海道大学北方資料室、北海道立図書館の3つに集中的に通いました。そして、その場で読み切れない文書はすべて、必死になってスマートフォンで写真に撮りました。3回の札幌行きで収集した資料は9ギガバイト近くになり、ファイル数は3000を超え、個別文書の点数は数百に上りました。それらを九州に持ち帰って丹念に整理し、ざっと目を通して、役に立ちそうな文書とそうでない文書に分けました。このプロセスは言うまでもなく時間がかかり、決して理想的なものではありませんでした。ところが、大量の文書を収集したにもかかわらず、収集した資料ではまだ十分でないと感じることがあり、さらに日本全国の諸機関が保有するデジタルアーカイブから数千ページに及ぶ資料を収集しました。日本の歴史調査をするなかでオンライン資料の活用を突如として迫られた経験をもとに、歴史研究をオンラインで行うことの長所と短所を中心に、デジタルアーカイブを活用した私の経験を以下にまとめてみました。オンライン調査は当たりはずれがあり、その範囲は各自の研究プロジェクトによって異なりますが、新型コロナウイルスの感染拡大で研究がままならない博士課程の大学院生など、若い研究者に私の経験が役立てばと思います。

日本の大学および国や都道府県・市の公的なアーカイブでは、史料コレクションのデジタル化が驚くほど進んでいます。ただし、毎年何千点もの新資料がデジタル化されているとはいえ、その手法はアーカイブによって違います。高解像度でデジタル化し、PDF文書に注釈までつけているアーカイブもあれば、時に判読しがたい低解像度の白黒画像しかないアーカイブもあります。全体としては、こうしたデジタル化は研究者にとって大変ありがたいものであり、今やアーカイブや図書館に足を運ばなくても、日本史を広範囲にわたって研究することが可能です。しかし、史料コレクションは諸機関に分散していますから、資料探しは多くの場合、「鼻を利かせて」、利用可能な資料をあちらこちらで見つける作業になります。

私の場合、札幌市にある上記のアーカイブはまだ大半の史料コレクションをデジタル化しておらず、そのため、札幌まで何度も出かける必要がありました。とはいえ、そうした制約もあったがゆえに、早稲田大学や山口県文書館、佐賀県立図書館など、全国各地のアーカイブに保存された北海道関連の大量のデジタル資料と出合いました。こうしたアーカイブはいずれも、北海道関連の資料探しに実際に出かけることなど思いもしなかったところです。なかでも私にとって申し分のない資料の宝庫は国立国会図書館です。何千点もの史料がすべて索引化され、高解像度のJPEGファイルでダウンロードできます。ただし、比較的新しい資料(著作権で保護されている著作物、著作権で保護された原本の複製物を含む)に国外からアクセスするには1つ大きな障害があります。国立国会図書館は多くの場合、利用者本人の来館か、日本の大学や公立図書館に設置された専用ワークステーションの利用を求めているからです。ただ、これは近い将来変わるかもしれません。文化庁は2017年に、日本研究を担当する国外の司書に日本の著作権法改正案について意見を求めました。この改正案が通ると、国外の研究者も多くの新資料が利用できるようになります。もっとも、19世紀の日本を研究している私の経験では、アクセスしようとした資料の大半はオンラインで入手できました。国会図書館にないデジタル資料は別のサイトで閲覧できるかもしれません。

そうした資料は、GoogleブックスやArchive.orgなどのウェブサイトで見つかることがあります。日本の多くの諸機関がそれらにデジタルコレクションをアップロードしているからです。研究者はそうしたサイトを利用すれば、コレクション全体または個々の資料をキーワードで即座に検索できます。標準的な日本語でなく、時に手書きの資料は見つからないこともありますが、概してそれが大いに功を奏して新たな情報源の発掘につながったりもします。日本以外の多くの諸機関も日本語資料をデジタル化して、それぞれのサイトにアップロードしています。一例を挙げると、私が日本で研究していた時、開拓使の初代長官・鍋島直正に関する日本語資料にアクセスして驚いたことがあります。それは、私の母校トロント大学がデジタル化した資料だったのです。

こうしたデジタル資料の活用によって、私自身の研究は、困難ではあれ挑戦しがいのあるものに変わりました。私は当初、北海道開拓に関する「公的」資料(公的なアーカイブに保存されている資料など)を検討するつもりでした。ところが、国立国会図書館などのデジタルアーカイブには、役人や開拓立案者ではなく、ジャーナリスト、識者、机上の帝国主義者、宣伝担当者、批評家、その他多彩な人たちが書いた実にさまざまな文書が保存されています。別の言い方をするなら、北海道開拓に言及したさまざまな資料が、しばしばまったく予期せずして見つかったのです。こうして見つけた資料は、北海道の歴史に対する私の理解に大きく影響し、北海道開拓の「基本事項」にとどまらず、より広範な言説的領野を分析するに至りました。

こうした経験のプラス効果はものすごく大きいのですが、注意すべき重要なことがあります。実際にアーカイブを訪ねるという経験は、オンライン調査で代替できないのです。アーカイブに出向いて研究するプロセスには、個々の文書を探し出すというより、各コレクションの量と範囲を把握するという側面があります。アーカイブでは理由があって、特定の文書を集めてコレクションとしています。そうしたコレクションへの理解を深めることで、特に植民地主義を研究する者としては、閉ざされた歴史を明らかにできることがあります。さらに、そうしたコレクションの最良の活用方法、各コレクションの長所と短所、自分の研究に最も役立つアーカイブを見定める方法を知るには時間がかかります。こうしたことは、個々の資料がオンラインですべて入手できるとしても、実際にアーカイブに足を運ばなければ、不可能ではないとしても難しいでしょう。また、私が北海道でたびたび経験したことですが、たとえば、探していたパンフレットが役に立たないとわかっても、それを探したことで、探そうと考えもしなかった大量の文書に出合ったりします。それはまったく違った研究モードであり、すべてのコレクションがデジタル化されようと研究者にとってやはり価値のあることです。

そういうわけで、本稿は従来の資料調査に終わりを告げようとするものではありませんし、質の高い、歴史的に厳密な研究をオンラインのみで行うことが不可能と言うわけでもありません。ただ現状を考えるなら、博士課程の大学院生、特に感染拡大の収束を待てるほど金銭的余裕のない者にとっては、深刻な制約を乗り越える創造的な方法を見いださざるを得ません。

日本国内の研究者を含め、コロナ禍でアーカイブ調査に取り組む研究者の経験を私はぜひ知りたいと思っています。教えていただける方、あるいは私の経験について質問がある方は、どうぞmichael.roellinghoff [at sign] mail.u-tokyo.ac.jpまでご連絡ください。

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