第1回東京カレッジ講演会「女性が拓く日本の未来」講演者:ビル・エモット氏 - 東京カレッジ

第1回東京カレッジ講演会「女性が拓く日本の未来」講演者:ビル・エモット氏

日時:
2019.05.15 @ 13:30 – 15:30
2019-05-15T13:30:00+09:00
2019-05-15T15:30:00+09:00
第1回東京カレッジ講演会「女性が拓く日本の未来」講演者:ビル・エモット氏

The Economist元編集長ビル・エモット氏講演「女性が拓く日本の未来」が開催されました

2019年5月15日、記念すべき東京カレッジ第1回講演会「女性が拓く日本の未来」が開催され、ビル・エモット氏が登壇しました。国際的なジャーナリストとして活躍するThe Economist元編集長ビル・エモット氏は、自身の日本駐在経験や取材で得た経験も交えながら、日本がこれまで辿ってきた道を分析し、日本の未来について考察しました。第二部では白波瀬 佐和子教授(東京大学理事・副学長)と対談を行いました。

まず、羽田 正教授(カレッジ長)より2019年2月に東京大学に新たに設立された東京カレッジと講演会の趣旨が紹介されました。東京カレッジは、従来の大学では実現が難しかったさまざまなチャレンジに取り組むため、分野を超えて世界の志ある人々とともに、地球と人類の未来について考え、そのあるべき姿を探るための場として設立されました。ビル・エモット氏は、これから5年間、フェローとして東京カレッジに所属します。

 

平成30年間の変化・現在・そして未来

エモット氏は、過去30年間に日本で起こった変化を1)少子高齢化 2)バブル経済の破綻 3)経済活動の構成の変化 4)結婚率の低下 5)4年制大学への進学を希望する女性の増加 6)女性の労働参加率の増加、という6つの項目にまとめました。これらの変化が、失業率が非常に低いにもかかわらず、以前より経済的に不安定だと感じる人が多い社会を形成していったと話しました。現在日本では、大学を卒業した新世代の女性(20代、30代、もしくは40代)がさまざまな組織で働いていますが、労働力が不足しています。女性が未来の日本において中心的役割を果たすと予測するエモット氏は、日本が人的資本をどのように育成し、活用するかが今後の経済の鍵になるとし、womenomicsよりも"humanomics"が中心的な課題であると述べました。さらに、"humanomics"を構成する三つの要素として、1)女性が日本の富や生活水準にもっと貢献すべきだということ、2)男女ともに雇用主と被雇用者の間の互いのコミットメントを広げること、3)ストレスや過労死などの問題に対処すること、を挙げました。

エモット氏は、特に政治や医学の分野で日本が先進国の中でも男女平等の面で大きく遅れをとっていることを懸念しました。具体的な対策として、労働契約法と夫婦の税制という二つの関連する制度に言及しました。昨年、安倍首相は非正規雇用という用語を一掃すると宣言しました。これに対し、エモット氏は「2018年の法律では以前の改革と同じように、正規ではない雇用契約を結ぶ社員に十分な職の安定性を提供するほどの改革は行われていません。退職金についての事前合意ですとか、年金をポータブルにするといったような契約条件をより明確に法律に入れるべきです」と述べました。また、現在の税制や社会保障制度によって、給料の低いパートタイムなどの職業から抜け出せない女性が沢山いることに注目し、「結婚している夫婦が直面する配偶者控除を廃止することで、大きな恩恵をもたらすことができます。このいずれかの改革が近年中に行われれば、かなり楽観的な見通しを持つことができます」と予測しました。

 

対談

講演会に続いて、エモット氏と、社会階層論、人口社会学、家族と社会制度の変化を専門とする白波瀬 佐和子教授(東京大学理事・副学長)の対談が行われました。白波瀬 教授はまず、日本における現状と、東京大学の現状について、それぞれに見られる男女格差の基本的な構造を説明しました。さらに、男女格差を縮小することに貢献するため、東京大学が30%Club Japan (※)のメンバーになっていることを紹介しました。対談では、現状を改善するための具体的な取り組みや、結婚という選択肢について、イギリスやフランスなどの事例もふまえながら議論が交わされました。

実務的な変化を導入する際に、いままで最も恩恵を受けていた中年男性をどのように説得すればよいかという話では、エモット氏は、企業の将来、最終的に年金をきちんと払うためには、男女平等に採用しなければならないということに中年男性も気づくかどうかが大事だと言及しました。白波瀬教授はさらに、ダイバーシティを実現し、男女の比率を半々にするには時間がかかると述べ、その間のコストをどのように払っていくのか、と問いました。これに対し、エモット氏は、これまではメリットとなってきた短絡的な思考や一貫性に固執することは危険で、過去の若い人材がこれから減少していく可能性があり、もっと別の人材が必要である、ということに気づくべきだと回答しました。

 

※30%Club Japan
https://30percentclub.org/about/chapters/japan

終了しました
開催日時 2019年5月15日(水) 13:30-15:30 (13:00開場)
会場

東京大学小柴ホール (本郷キャンパス理学部1号館)

申込方法 事前申込制。(定員150名/先着順、参加無料)
言語 日本語・英語(同時通訳有)
主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

Upcoming Events

開催予定のイベント

国際女性デー シンポジウム「国境を越えたフェミニスト運動を考える」

イベント予定シンポジウム/Symposium

2023年3月31日(金)10:00-11:30

東京カレッジのジェンダー・セクシュアリティ・アイデンティティ共同研究会は、国際女性デーにちなんだシンポジウムを開催します。「女性、生命、自由」というスローガンを掲げたイランの抗議運動に注目し、女性を中心とした運動がどのように翻訳・伝播・理解され、国境を超えた連帯を促進しうるかを考察します。

「動物、災害、山――環境人文学再考」(講演者:ハルオ・シラネ教授)

イベント予定講演会/Lecture

2023年4月4日(火)16:00-17:30

日本文化において、人間と動物、人間と山とは、どのような関係にあるでしょうか。そして自然災害との関係は?これらの複雑な関係は、現代にふさわしい環境倫理を生み出すためにどのように役立てることができるでしょうか。本講演会では、人間と人間以外のものの関係を再考する手段として、「災害•アフターライフ•再生 のエコロジー」を提唱するシラネ教授からお話を伺います。

日本の言語政策と学習者アイデンティティの前提 ― 日本人のための英語教育、外国人のための日本語教育の推進 ― (講演者:橋本佳代子)

イベント予定ワークショップ/Workshop講演会/Lecture

2023年4月17日(月) 13:30-14:30

日本の言語政策は、国家、言語、国民が不可分であるという考え方が根底にあり、この考え方が日本の言語政策を形成してきました。本講演では、橋本佳代子博士(クイーンズランド大学)が、日本のいわゆる「英語教育」において学習者のアイデンティティがどのように構築されてきたか、また、海外での日本語教育推進において学習者のアイデンティティがどのように想定されてきたかを論じます。

外来語と日本人のアイデンティティ:「氾濫」と「吸収」?

イベント予定講演会/Lecture

2023年4月19日(水) 17:00 -18:30

日本語は外来語の氾濫によって乱れているのか。それとも、外国語から新しい語彙を吸収することで豊かになっているのか。現代の日本では、そんな議論をよく耳にする。本書『Loanwords and Japanese Identity: Inundating or Absorbed?』は、日本語の語彙借用についての議論を分析することで、言語とアイデンティティの関係を探る。

Previous Events

公開済みイベント

染色体の機能と維持 ー 生命の継承のしくみ(講演者:Camilla BJÖRKEGREN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2023年3月10日(金)16:00-17:30

DNAのらせん構造に着目し研究を行うBjörkegren教授を招き、染色体DNAの構造と機能、そしてこれらの特徴が細胞の増殖にどのような影響を与えるのかについてお話を伺います。遺伝物質が二本鎖のらせん状に構成されていることによって、私たちの細胞のアイデンティティと発達がどのように方向づけられるのか、また、本当にこれらによって方向づけられているのかという点についても議論します。

アジアと世界の男性像:社会言語学からみた変遷(講演者:平本美恵准教授)

イベント予定ワークショップ/Workshop講演会/Lecture

2023年3月1日(水)15:00-16:00

本発表では、社会言語学の視点からみて、アジアとそれ以外の地域における男性像の変遷を探究します。社会文化的なステレオタイプと男性性イデオロギーとの関係、また、ジャンル、スタイル、メディアがこれらの概念に対する私たちの理解をどのように形成しているのかに焦点を当てます。Aghaの著作を中心に、メディア化 (mediatization)とレジスター化(enregisterment)の理論的概念、および人物像(figures of personhood)の概念を用いて、3つのケーススタディを分析します。

メアリ・ウルストンクラフト フランス革命の歴史を見つめ、書き残した英国の女性思想家(講演者:Pierre SERNA教授)

イベント予定講演会/Lecture

2023年2月27日(月)16:00-17:30

一般的には、フランケンシュタインを近代化の怪物的なメタファーとして描いたメアリ・シェリーの方が、母親のメアリ・ウルストンクラフトよりも馴染みがあるだろう。また、メアリ・シェリーを出産してウルストンクラフトが亡くなったことは、歴史家には知られている。しかし、研究者の間では、ウルストンクラフトの2つの著書、エドマンド・バークに対する返答としての『人間の権利の擁護』と『女性の権利の擁護』は、極めて高い評価を得ている。本講演では、長いあいだ日の目を見ることが無かったウルストンクラフトのもう1つの著書、『フランス革命の歴史的・道徳的見解とそれがヨーロッパにもたらした影響』を紹介する。これはフランス革命に関する最初の偉大な歴史書の一つであり、新たな叙述と歴史的認識論を提起している貴重な本である。

日本と感性ロボット:性別と感情をプログラミングするとは?(講演者:Jennifer ROBERTSON教授)

イベント予定講演会/Lecture

2023年2月20日(月)16:00-17:30

日本における多くの人型ロボットは、アルゴリズム構築のために大幅に単純化され、ステレオタイプ化された性別、感情、性質を備えつけられている。多数のアルゴリズムで構成される人工知能(AI)は、パターン認識のタスクには有用だが、人間の設計者が抱いている日常社会の偏見を永続させ、再生産することもある。本講演では、このような人型ロボットと、ロボットの設計がセキュリティを含む他の産業に及ぼす影響について議論する。

北インドのウッタラカンド地方の若者に学ぶ生き方(講演・ドキュメンタリー映画上映)

イベント予定講演会/Lecture

2023年2月8日(水)16:00-17:30

北インドのウッタラカンド地方において、環境と社会経済的危機に対応し、日常的に社会活動を行いながら、若者たちがどのように生き延びようとしているのか紹介します。Jane Dyson准教授によるドキュメンタリー映画「Spirit」も上映します。

英国のインド太平洋地域への傾斜―2022年に何が変わったのか?(講演者:Alastair MORGAN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2023年2月3日(金)16:00-17:30

2021年、英国政府は防衛、安全保障、開発、外交政策における「インド太平洋への傾斜」を発表した。本講演では、英国の政治的混乱や経済的困難、ロシアのウクライナ侵攻の影響などが展開した2022年の変化を検討する。


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