TOKYO COLLEGE Booklet Series 8
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39 横山先生は以前から、非常に難しい研究内容を発信しなければならない組織にずっと身を置かれていると思います。一般の方からすれば、素粒子物理学は相当遠い存在のように思うのですが、そういうときにどう忍耐を持ってご説明するように先生方にアドバイスされたのでしょうか。 横横山山 私自身は基礎科学の情報発信を常に応援する立場で、自分自身がやるというよりは、ご指摘いただいたように科学者にアドバイスをする立場にいます。その中では、アドバイスするまでもなく、科学の楽しさを共有しようというピュアな気持ちにあふれた方々ですので、非常に安心して見ています。 ただ一方で、あまりにも簡略化して何となく分かった気にさせて終わりでいいのかどうかというのは、私自身もちょっと悩むところがあります。より政策的な議論になるときには、統計が良くなることにどれくらいの意味があるのかをもっとはっきりと述べるべきではないかなど、アドバイスも時折しています。 今は非常時発信のことが主な話題になっていると思うのですが、そういう側面でいうと、今までの議論のように意見も割れますし、メディア側も使いたい情報を発信する専門家を登用します。それによって分断がますます顕在化します。特にSNSは分断を深める装置として機能し、共有するというよりも分断が深まっていることが随分懸念されています。今のコロナ禍でも残念ながらそれが加速している気がします。 そうしたところで専門家がどう振る舞うかというのは非常に難しい話ではあるのですが、私は「質に責任がある」と科学者に言うようにしています。先ほど藤垣先生がおっしゃったように政治的決定やその責任は政治家にありますが、科学的責任は科学者にあるわけです。それを踏み倒して「自分には責任はないから言うだけ言う」という態度はやはり不適切であ

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