TOKYO COLLEGE Booklet Series 8
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33 と正直に言ってくれればよかったのに」と言っています。しかし、英国の気象学者は反対論が勢いづくことを懸念し、そのデータをわざわざ一般向けのプロットにはそのまま使わなかったのです。 私は社会心理学者とよく共同研究をしているのですが、社会心理学でいわれている古典的なモデルでは、信頼は二つの要素で成り立っています。一つが能力、もう一つが組織や科学者の意図です。科学者の場合、疑われるのはどちらかというと意図の方だと思います。何か隠蔽しているのではないか、都合の悪いことは言わないのではないかという意図の方を疑われるのです。時々刻々と状況が変わるのは一般の方ももちろん分かっているのですから、やはり正直に迅速に透明性をもって情報を開示することが一番であり、その際にはいかに分かりやすく、届きやすくするかが重要なのです。科学者は科学の質を保つことを徹底しながら情報開示することが、結局は意図を疑わせず、信頼に導くための方法なのではないかと考えています。 大大竹竹 幾つか事例を取ってご議論いただこうと思います。例えば地震に関しては当初、プレート型で、一瞬どこかでエネルギーが解放されればしばらくは起こらないという言説があったと思います。ところが、東日本大震災では最低でも3カ所ぐらい連続して地震が起こってしまいました。熊本地震のときは、本震だと思っていたものが前震で、その後に本震が来ました。要するに、これまでの前例が覆るような話が実際に起きたわけです。そのとき、佐竹先生や他の地震の先生方はどういうところで苦労されましたか。 佐佐竹竹 東日本大震災のときは、われわれが考えていたことが根底から覆ったわけではありませんでした。東日本大震災は500年や1000年に1回の地震といわれていますが、われわれは最近100年ぐらいしか見ていなか

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