TOKYO COLLEGE Booklet Series 8
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21 健康を守るのか、経済を守るのか、価値はいろいろあるのですが、それが入って初めてただの確率ではなくリスクという概念になるのです。 そして、リスクコミュニケーションやクライシスコミュニケーションは不確実なものを扱います。先ほど申し上げたように、時々刻々と更新される事実を扱ってコミュニケーションしなければならないという難しさを元々持っていると考えた方がいいでしょう。 2020年8月4日、大阪府の吉村洋文知事は、新型コロナウイルスにうがい薬が効くとして使用を呼び掛けました。府立病院機構が運営する大阪はびきの医療センターで6~7月、府内のホテルで宿泊療養している患者約40人を対象に、うがい薬で1日4回うがいをするグループとしないグループに分けて4日間調査したところ、うがいをしないグループのPCR陽性率が56.3%だったのに対し、うがいをした方のグループは21.0%だったのです。 私は毎日新聞から知事の発言に関してコメントを求められたので、以下の3点について述べました。1点目に、科学的根拠の特性として、研究成果は時々刻々と更新されるものだということです。新型コロナに関してもまだまだ知見を収集しているところであり、はびきの医療センターが集めたデータも対象人数が少なく、不確実性が高いといえます。2点目に、情報発信上の問題として、知事のような影響力のある人はエビデンスに対して慎重である必要があるでしょう。一つの情報源だけでなく複数の専門家の意見を聞く必要がありますし、唾液中のウイルスは減ったとしても体全体としてはどうなのかという疑問もあります。3点目に、受け取る側のリテラシーとして、知事が言っていることは本当なのか、自分で調べてみることも必要です。これら3方向からの検討が必要だと申し上げました。

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