TOKYO COLLEGE Booklet Series 7
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31 そうした中で、全部バーチャルでできるではないか、今さら出勤する必要はないのではないか、満員電車に乗る必要はないのではないかといった声が聞かれました。私は都市計画が専門ですが、都心のオフィス街がどんどん空洞化し、東京のど真ん中に本社を構える意味がなくなっているということが言われがちです。 しかし、冷静になって考えてみると、もちろん以前からバーチャルに移行した方々もいますが、私たちの多くはバーチャルに移行してまだ3~4カ月の経験です。その中で、今できていると言っていることのかなりの部分は、実はバーチャルに移行する以前に私たちがリアルのさまざまな交流や情報を手にする中で培ってきた基礎の上に乗っかっています。ある意味、ルーティンとして回していた部分をバーチャルに移行できた段階にすぎないと言わなければならないと思うのです。そうした段階において、フェース・トゥ・フェースにどういう再定義がなされるのか、東京都心がこの先どうなっていくのかといったことを断じるにはまだ早過ぎると思います。もう少し時間がたってみないとはっきりしたことは分からないということがまず前提としてあると思います。 そうはいっても、恐らく今後、バーチャルとリアルが融合する世界が、特にSociety5.0などを通じて実現されると、リアルであることの再定義が当然行わなければならなくなると思います。その際に、実物の人間に会ってみないと信頼関係ができないとか、一緒に酒を飲まないと信用できないという言われ方がよくされますし、確かにそういう面があるのも私は決して否定しません。しかし、それ以上に私がリアルであることの価値として指摘したいのは、予定調和的でないことや偶然偶発的なことに巡り合う可能性の高さです。 というのも、バーチャルな世界ではどうしても自分が予定していることや目的としているものだけに情報や人が限られてしまいます。それに対し

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