TOKYO COLLEGE Booklet Series 7
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17 いか。これが武田先生の問いかけでした。「ポスト・トゥルース」という言葉も流行しましたが、私たちは相変わらず統計や文書の改ざんそして恣意的な解釈によってなされる意思決定に翻弄されています。武田先生からは、今のコロナ禍において『ペストの記憶』を読み直す意義として、正解が見えない状況でどう振る舞うかというオプションを示しているのではないかというご提案を頂きました。われわれが現在対応していることとほとんど同じことを当時も行っていたのですから、何ができて、何ができなかったのかを、意思決定の在り方の参考にすることは大変有意義だと思います。 経済学研究科の小野塚知二先生は、20世紀の第1次世界大戦とそれに続く「スペイン風邪」の問題を念頭に置きながら、ミシェル・フーコーが言うようなバイオポリティクス(生政治)が非常に進展してしまっているのではないかという指摘をされました。20世紀の場合、バイオポリティクスが個人の内面をつかもうとしてきましたが、今はテクノロジーの発展で個人が積極的に自分の情報を出していきます。監視されたくないというよりは、正しく監視してもらいたいという状況に陥っているのです。そのことをどう理解すればいいかというと、小野塚先生は、「安寧な生が保証される代わりに人権・自由・私権といったモダニティを貫く価値が形骸化しているが、本当にそれでいいのか。自由と安全がジレンマにならずに、どちらも追求されるような道はないのか、もう一度考えよう」という提案をされました。 社会科学研究所の宇野重規先生は、民主主義の問題をずっと追い掛けていらっしゃいます。安全・経済・自由がトリレンマになっている状況からどのようにして民主主義のアップデートをすればいいのかというご報告を頂きました。緊急事態自体は20世紀的な政治哲学の概念ですが、その中で政府というよりも実は国民が独裁の方に行きたがる傾向があるので、

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