TOKYO COLLEGE Booklet Series 5
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36 食と供給連鎖(サプライチェーン)の現場からは、このような声も聞かれます。「高付加価値化してグローバルマーケットを目指していたから、今の状況で国内市場に供給先を新たにつくることは難しい。同じ価格で買ってくれる人はいないだろう。悔しいが、畜産をやめるしかない。他もいいわけではない。研修生がいて初めて成り立っているところがあるから、そもそも安価に見合う人手がいない」。つまり、安価な労働力に頼って生産しながら、市場の安い価格を維持することをやってきたひずみを、高付加価値化によって乗り切るしかないと思ってきた。ところがそれが裏目に出てしまっているのです。ここから見えるのはもともとあった生産現場の疲弊と、やはりグリーンマーケットへうまく転換することはいろいろな意味で必要だという課題です。 逆にローカルなマーケットに着目すると、「生協や提携でやってきたところは逆にお客が増えた。でも、生産量を増やすわけではないから、対応できるのは限界があるし、限られた量を生産するのでいいと思っている。お肉券もお魚券も、短期的な手当だとしても何をどこに持っていこうとしてそうなったのか。元に戻らないことを前提にしたビジョンも一緒にないと、これからは変化しかないならこらえ切れない」という声が聞かれます。農業者や漁業者は気候変動の影響もかなり密接に感じているので、自然とともに生産するからこそ、不確実性に対処するための確実な適応をしなければならないことは前から分かっていました。それも含めて、「変化ばかり」という言い方をしています。 こうした個々人の苦境の中で、環境は、日々の生活から切り離されて見られがちです。つまり、生活や労働の現場にとって環境は遠い存在になっています。例えば再生可能エネルギー型社会をつくろうとしたときに、それがどれだけ人々の普段の生活や労働に結びついたものとして見えるか、経済活動が止まって青い空は増えたけれども、そこから先に何が進むかと

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