TOKYO COLLEGE Booklet Series 5
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35 そして、環境と呼ばれるものが逆に失われる可能性があります。すなわち、規模拡大のためのグローバリゼーションの生産体系がもう一度見直されるべきなのに、経済を呼び戻せという掛け声の下でそこに向かわない可能性が高くなっています。これらの「掛け算」の中に置かれている人たちの具体的な声を幾つか拾ってみようと思います。 例えば「働く、住まう、ケアする」ところにいる医療現場の人たちからは、こういった声が聞こえてきます。「正社員がオンラインになっても、非常勤はオンラインにならなかった。元々医療事務だからそもそもオンラインにしにくいのだけど、怖いな、怖いなと思いながら頑張って通って働いたら、下の息子の保育園から『来ないでほしい』と言われるようになった。どうしようかと思っていたら、今度は病院から雇い止めになった。病院も赤字になるから、最初に調整するなら非常勤だろうなと悪い予感はしていたんだよね。元々、人より頑張らないと普通に暮らせないことは分かっているけれど、それが一気に来るとねえ。せめて保険料は頑張って払わないと」。彼女はシングルマザーの非正規雇用なので、掛け算で一番リスクが増え、現実化する立場でもあります。 同じ医療現場にいる医師に話を聞くと、「病院だって、保健所だって何だって、そもそも削れるところは全部削ってきたからね。それを忘れて、もっとちゃんと働け、回せと言っても、元々育休すら取れない状態になっているということは、それだけ労働力を補充したり、足したりすることができない状態ということだから、平生からぎりぎりのところは対応できない。医療崩壊の前に制度として回せていない」と言います。実は育休に対応できていた労働現場では、余剰の労働力もきちんと視野に入れることで、危機のときに少しでも対処しやすくなることは他の国でも指摘されているのです。

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