TOKYO COLLEGE Booklet Series 4
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28 星星 岩本さんがおっしゃった生命と経済のトレードオフも、そんなに新しい話ではないのではないかと思うのです。例えば、経済活動を拡大していくことと環境を守ることがトレードオフになっているという話は昔から指摘されていました。今回のコロナ危機による生命と経済のトレードオフの関係は、質的に違うものが何か起こっているということですか。 岩岩本本 私が「コロナ危機は新しい」と言ったのは、それ自体が景気後退や不況などの短期的な経済危機になって表れるのではなくて、もう少し長期的でローカルな問題として現れている点で、健康と経済のトレードオフが景気の問題になってきたからです。 ただ、星先生が指摘されたように、トレードオフは共通の構造ではないかというのは非常に大事な指摘だと思います。COVID-19をこれまで経験のない課題と捉えたときに、共通した構造を持つ課題への対応をヒントにして考えることは、課題解決に向けて非常に有益な考え方だと思います。確かにわれわれは環境を保護するために経済活動に制限を加えていますが、COVID-19への対策ほどの打撃を与えずに経済活動が円滑に営まれていると思います。環境と経済のトレードオフに関して経済学が貢献しているように、環境規制のグッドプラクティスを手本にして、感染症対策としての経済活動制限を合理的なものにしていくイメージを描くことによって、今後の対応に良いものをつくっていくことが考えられるのではないかと思います。 環境規制が経済に破壊的な影響を与えていないのは、具体的な環境問題が時間をかけて現れてきて、科学者が研究する時間を与えられ、問題の評価や対応を科学的に実施することができているからだと思います。これに対し未知の感染症は、具体的な脅威が目の前にあって、しかも急速に流行するものですから、何が正しい対応なのかが十分に分からないまま対策を講じていかなければならないという点で違いがあると思います。そのとき

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