TOKYO COLLEGE Booklet Series 4
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15 実際にどの産業から制限を緩和すべきかという点に関して、ハーバード大学の経済学者と公衆衛生学者のチームによる研究成果を紹介します。どの産業から再開していくかという問題設定をすると、政策変数(産業の数とタイミング)が多過ぎて厳密には解けなくなります。そこで、この研究では、経済的価値と感染拡大の比率を産業別に計算し、それを目安にする考え方を取っています。 リスク当たりの経済価値が高い産業としては、金融、法律、サービス、企業経営管理、コンピューターシステム開発、出版が挙げられます。これらが上位に挙げられているのは、専門技術サービスで付加価値が高い点やリモートワークが可能な点が理由と考えられます。逆に、リスク当たりの経済価値が低い業種、あるいは経済価値当たりのリスクが高い業種には、接触が必要な業種が挙げられています。中には医療、福祉、運輸のように、止めることができない産業があるのが悩ましいところです。教育も入っており、長期休校によって止めることの損失が大きな産業であるといえます。その他には飲食、宿泊、娯楽が入っており、これらは現に最も制限が課された産業でした。 こうした研究を踏まえて実際の経済活動の制限を評価すると、こうした研究がない段階から恐らく直観的な推測が行われていると思いますし、トレードオフを考えないで感染予防を重視することが選択されたと思いますが、大勢としては妥当なものだったと評価できます。ただし、一部の産業が大きな負担を負うことになるので、負担を負った産業をどう支援するかが重要になります。効率を重視すると格差が拡大するという、経済ではよく語られる現象がここにも表れます。望ましい対応は、感染症対策によって経済にかけられた負荷をできるだけ全体で平等に負担していくことだと考えられます。

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