TOKYO COLLEGE Booklet Series 4
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14 私は日本の対策の評価を研究しているのですが、現在落ち着いているところまででわれわれが対策で得たものを金銭評価すると、大きく見積もってGDPの約0.5%と推計されます。しかし、対策による経済損失は0.5%で収まることはなく、5%になっても全く不思議ではないし、それ以上になるかもしれません。 しかし、4月7日に出された緊急事態宣言は、一般市民からおおむね支持されて実施されました。その理由としては、COVID-19では肺炎が急速に進行したり、集中治療室を長期間占有したりという、医療従事者にとっては極めて脅威となる病状があって、軽症や無症状の感染者の情報もつかみにくいことから、当初は医療従事者から情報発信されるときに、正確な評価よりも深刻な脅威と捉えた情報が広まったことが挙げられます。 そして、流行期の一般市民の受け止め方も、健康を重視する方向に偏ったことが考えられます。流行最盛期の4月ごろ、イギリスとアメリカを対象に命と経済のトレードオフに関する意識調査をしたところ、調査対象者が健康に置いた価値は、これまでの研究で妥当と考えられている範囲よりも1桁大きい金額になったと報告されています。つまり、一般市民のトレードオフは、そのときに与えられた情報によって変化するのです。 次に、将来のことに目を向けた話をすると、ウィズコロナ社会では経済と感染予防の両立が要求されるようになります。経済活動が活発になれば感染機会が拡大するので、健康と経済のトレードオフによって経済活動の制限が必要になるとすれば、一律に経済活動を制限するよりも、効果の大きい制限に絞った「選択的な制限」を取るべきではないかと考えます。医療体制を立て直した上で経済を回していく経済再開(リオープニング)を行う際には、ある程度のリスクを取って制限を緩和するわけですが、制限緩和によって生まれる経済的価値と感染拡大の比率を取って、経済的価値の比率が大きい産業から動かしていくのです。

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