TOKYO COLLEGE Booklet Series 4
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13 業など一部においては経営の形態が制限されてしまうので、単純な景気回復が雇用回復につながらない可能性が既存の不況と比べてより大きいと考えています。 岩岩本本 私からは、命と経済のトレードオフという観点からお話ししたいと思います。今月(6月)、経済協力開発機構(OECD)と国際通貨基金(IMF)からレポートが出されましたが、どちらも新型コロナウイルス感染症が90年前の大恐慌以来の最大の不況になると展望しています。過去100年余りにおけるコロナ禍に並ぶショックとしては、二つの世界大戦や世界的金融危機、スペイン風邪など、ごく限られたものしかありませんが、戦争と疫病というのは、別の目的のために自らの意思で経済を犠牲にしている点で他の経済危機と異なります。 起こってほしくないショックが起こったとき、普通はどのようにそのショックを緩和するかを考えますが、COVID-19の場合、命と経済、あるいは健康と経済のトレードオフの間で選択して、自らの意思で払ったわけです。COVID-19に対する日本や世界の選択が妥当なものだったかどうかはまだ確定していませんが、少なくとも日本については健康や生命を過剰に重く見たのではないかと思います。 日本では2月に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が設置され、疫学の専門家の分析と助言が対策の立案に大きく影響しました。疫学には感染症の流行を記述するモデルや対策の効果を検証するモデルはあっても、感染症対策の経済的な費用を勘案するモデルはありません。感染症の専門家が専門的見地に忠実であろうとすれば、経済度外視の助言が出てくることになります。そこで、経済と健康のトレードオフについては経済学の知見が必要になるのです。

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