TOKYO COLLEGE Booklet Series 3
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6 ははじじめめにに 感染症のパンデミックはグローバル化の進む世界においてその頻度を増してきています。資本主義経済がその外部に負荷を与え続け、深刻な環境破壊を引き起こしていることや、人とモノの過剰なまでの流通がその大きな要因であることは疑いえないと思います。目先の利益のために、水や空気さらには土地といったコモンズまでもが商品化され、豊かさという価値が失われています。それは、環境を破壊するだけでなく、人の生それ自体の貧困化に拍車をかけることに至っています。COVID-19のパンデミックは、こうしたわたしたちの社会の姿をあぶり出してしまったのです。 いったい、わたしたちにとって価値とは何であるのか。それは単にモノの所有や、コトの消費ではないはずです。それは、人がただ生きるのではなく、よく生きることに触れる何かだろうと思います。COVID-19のパンデミックに対して、各国は国境を閉ざしましたし、学校も企業もその門を閉ざしました。監視するテクノロジーもまた大いに活躍しました。日本では「自粛の要請」というパラドクシカルな言説のもと、Stay Homeが実行されました。しかし、それによっていったい何を守ろうとし、いかなる価値を実現しようとしたのでしょうか。おそらくは人の生(ライフ、ビオス)を守ろうとしたのでしょうが、本当に「よく生きる」という価値の実現に繋がったのでしょうか。 このセッションでは、人文社会科学の知見から、こうした根本的な価値の問いに迫ろうとしました。文学、歴史、政治、そして哲学は、今こそどのような角度からこの問いを練り上げるのかをご覧いただければと思います。17世紀のロンドンでのペストへの奮闘は、わたしたちの今の対処の仕方と大きな径庭がありませんし、100年前の「スペイン風邪」のパンデミックが引き起こした課題はいまだ十分に解決されていません。デモク

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