TOKYO COLLEGE Booklet Series 3
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31 さらに、次のステージとしては経済が問われるわけです。日本政府の場合は早くから経済を強く意識してきたため、安全対策が十分になされなかった経緯もありますが、今後は安全を確保すること以上に、経済がこのまま行くと死んでしまう、経済の回復が必要であるという議論が非常に強くなると思います。しかしながら、仮にもし経済を回復するために安全を軽視するのであれば、その際に多くのリスクを受けるのは高齢者を中心とする人々であり、多くの人々の生命が脅かされます。 もちろん、経済活動がなければ、それはそれで違う形で人々の生活が難しくなってしまいます。こうなると、安全と経済と自由の3つを同時に実現することは極めて難しくなります。であるとすれば、どれにプライオリティを置くかということ、いわば政治哲学的な課題が極めて重要になると思います。 今回の緊急対応においてもしばしば、トリアージという言葉が話題になりました。緊急対応で全ての人のケアができないとするならば、どういう順番でケアをしていくべきか、非常に残酷な議論ですが、今後のウィズコロナ社会において人の命にあたかも軽重があるかのごとく論じていく危険性が極めて高いと思っています。安全と経済と自由というトリレンマは、決して唯一の正解があるわけではありませんが、このことを考えていくことは極めて重要だと思います。 それと同時に、コロナ禍は全ての人を平等に襲うわけですが、アメリカの事例を見れば分かるとおり、死亡率を見ると人種や所得が極めて重要なファクターになっています。そういう意味では、今回のコロナ禍においても、所得が保障されているサラリーマンと非常に脆弱な経済的基盤しか持っていない人々の間で、極めて負担の違いがあったわけです。それが自己責任ということで補償も十分なされない形で負担が偏在しているのが現状です。そういう意味で今後ますます重要になってくるのは、平等と公正

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