TOKYO COLLEGE Booklet Series 3
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28 1. 民民主主主主義義のの論論点点 今回のコロナ禍はある意味で、人と人が一緒にいること自体を問い返していると思います。哲学者のハンナ・アーレントが「政治とは人間と人間の間の言語を介した相互関係である」と規定したことにもつながりますが、まさに政治や民主主義の価値自体を大きく問い直すきっかけになっていると考えます。 まずは、民主主義についてです。小野塚先生のご指摘にもありましたが、今回の緊急事態宣言では民主主義が大きく揺るがされたと考えています。私がしばしば耳にしたのは、民主主義は意思決定にどうしても時間がかかるというせりふです。「合意形成にはどうしても時間がかかるが、中国のような独裁の方が意思決定が早いではないか。危機の状態では、既存の制度やルールを逸脱してでも緊急的に判断しなければならない。そうならば、民主主義ではなくて独裁の方がむしろ危機に適しているのではないか」いう言説です。 私はこれに対して非常に危機意識を持ちました。民主主義社会においても緊急事態に対応することが十分可能であるということを私はさまざまな形で検討しました。特に鍵になるのは事前の制度化であり、特に緊急事態という言葉の無限の拡大解釈を許さないような制度化が重要です。それと同時に、それ以上に強調したいのは事後の検証です。危機のときには、なかなか正解が分かりません。そういう既存の制度やルールを越えてでも行動しなければならない場合、何より重要になってくるのは事後に必ずチェックすることです。 正しく行動したのか、判断は適切であったのかを検証し、そのために記録を残すことが極めて重要であり、古代ローマ以来の緊急事態の制度を研究してみると、必ずきちんとした記録を残して事後的にチェックし、場合

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