TOKYO COLLEGE Booklet Series 3
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20 2. COVID-19にに関関すするる現現状状認認識識 現状認識として、私は「水際対策」が既に100年前のスペイン風邪のときに無効になっていたと考えています。外部から何か悪いものが侵入してくることへの恐怖心が心理的にあったことは認めますが、それを水際で防ぐことができるという発想、船を沖合に40日間止めておくという発想は、100年前のスペイン風邪のとき、既にうまくいっていませんでした。 その最大の理由は、例えば交戦中でヒト・モノ・カネの流れが完全に途絶していたイギリス・フランスとドイツの間でさえ、あっという間にスペイン風邪が伝染したからです。ある意味では最も水際対策のうまくいっていた状況といってもいいのですが、水際対策をしても病気がうつるほどに、人や物の移動が盛んな状況が20世紀初頭には訪れていました。水際で何か対策しなければならないと気付いたときには、すでに内部で感染が進んでいたと考えられます。 それから、きちんとした検査が行われていないため、統計的なデータも蓄積されていません。敵の勢力を分析もせずに掛け声を発し続けて、部下や民衆に責任を負わせた、80年前の戦時の忌まわしい非科学性の粗雑な再現を見ているような気がします。ナチズムにおいて職業倫理が充満していたのに比べ、日本の戦時体制における指導者や専門家の職業倫理が欠如していた点で、現在も似たような状況を見ているような気がします。 さて、ワクチンや治療薬への期待は確かにあるのですが、有効でかつ安全なワクチンを開発するのは容易ではありません。だからといって、多くの人が感染して、集団免疫を獲得すればいいのかというと、そんなに簡単なことではないでしょう。

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