TOKYO COLLEGE Booklet Series 3
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12 1.『『ペペスストトのの記記憶憶』』とと現現代代のの共共通通点点 私が翻訳したダニエル・デフォーの『ペストの記憶』は、1665年にロンドンを襲ったペストを記録した著作で、半分フィクション、半分実録という非常に奇妙なテキストです。本日は、『ペストの記憶』に描かれた感染症の恐怖と現在のコロナ危機との類似を見ながら、疫病が市民社会にもたらす困難の本質、そこから浮上する社会的・倫理的な問題について考えたいと思っています。 デフォーは、1660年にロンドンで生まれました。商人階級の出身で、父はロンドン中心部に店を構えていた有力商人でした。彼が5歳のときにロンドンでペストが流行し、このときの死者数は7万人とも、それ以上ともいわれています。彼自身は1681年に独り立ちし、最初は商人として出発しますが、やがて政治ジャーナリズムの世界に身を投じるようになります。当時は、1688年に名誉革命、1707年にはイングランドとスコットランドが政治的に合同するなど、イギリスで大きな政治的変化があった時代です。デフォーは、どちらにおいても変化の側を支持した人でした。もちろん彼が中産階級出身だということもあるのですが、彼は常に社会の変化を支持し、実に多くの記事や論文を執筆しました。当時の論壇の中で、彼はジャーナリストとして一目置かれていました。 Daniel Defoe by Michael Vandergucht, after Jeremiah Taverner line engraving, 1706, NPG 3960 © National Portrait Gallery, London. Creative Commons

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