TOKYO COLLEGE Booklet Series 2
12/46

10 これらはいずれも、近代的な都市計画の嚆矢と位置づけられるものですが、その根底に、疫病の蔓延に代表される劣悪な衛生環境の改善があったこと、一般大衆を含む都市に暮らす人々があまねくその恩恵を享受できることが想定されていたことは、特記されるべきでしょう。 しかし、そうした崇高な理念の一方で、現実はどうだったか。トーマス・ムーアから続くユートピア思想の影響を受けていたハワードは、ガーデンシティを、市街地周囲をガーデン=農園が取り巻き、医師や弁護士、工場労働者、農民といった多様な職種の人々がともに暮らす自律型都市として構想しました。しかし現実には、ガーデン=庭園との解釈のもと、緑の多い郊外住宅地との認識が定着し、それが世界に拡散してしまいました。グリーンベルトによる市街地の無秩序な拡散の抑止も、肥大化した都市の機能不全の解消という表向きの目的の一方で、郊外の田園地帯に邸宅を構える高所得者層の居住環境の保護が、裏の目的ともなっていました。 2..イインンククルルーーシシブブなな都都市市社社会会のの形形成成にに向向けけてて 公衆衛生の改善を通じ、誰もが安心して住める都市を形成するという目的をかかげた近代都市計画が、現実には高所得者層のためのエクスクルーシブな環境の形成につながり、社会的格差を助長することにもなってしまった。こうした歴史的な事実を、COVID-19の脅威にさらされている現代の都市に生きる私たちがどう受け止め、多様な人々が様々な立場の中でともに暮らす、インクルーシブな都市社会の形成につなげていくことができるか。それこそが、危機にさらされるたびに、差別や格差が顕在化し助長されるという経験を重ねてきた歴史の継承者としての、私たちに課せられた使命なのではないでしょうか。

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る