TOKYO COLLEGE Booklet Series 1
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11 また、新型コロナウイルス感染症では、ハッピー・ハイポキシア(幸せな低酸素)といって、血中酸素濃度が下がっても症状としてなかなか表れないことが、患者を管理する上での大きな問題になっています。 COVID-19を解析する上でも、幾つもの問題が指摘されています。既にさまざまな報告がなされていますが、それらの解析の母集団が重複していて、全貌がつかみにくくなっているという指摘が、3月の時点で米国医師会雑誌(JAMA)でなされています。 薬の開発についても、喫緊の課題として研究が進められています。4月末にNatureには、既存の薬がCOVID-19の治療に使えるかどうかを調べるドラッグ・リポジショニングの研究が掲載されましたし、今話題になっているアビガン、レムデシビルなど、他の病気のために開発された薬を流用する研究も行われています。通常、新薬を開発するには平均25年、合計3000億円以上の予算が必要といわれているので、既存の薬をすぐに流用できる可能性は高くないにも関わらず、有効な薬を急いで探している状況です。 もう一つの重要な問題として指摘されているのが、適切に行われていない臨床試験があることです。急いで臨床試験を行っているため、解析に必要な十分な患者数がリクルートされておらず、比較対照群が適切に取られていない臨床試験もあり、このような状況では正しい薬を生み出せないということをNatureが先月、指摘しました。 同様のことは、先週のThe New England Journal of Medicineでも「学問に王道なし」ということで、「急いでいろいろなことをしようとしてもダメで、古典的できちんと確立された方法で臨床試験をしないと正しい薬は見つけられない」と指摘しています。

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