東京カレッジ講演会「グローバルな学術言語としての日本語」講師:ヴィクトリア・エシュバッハ=サボー - 東京カレッジ

東京カレッジ講演会「グローバルな学術言語としての日本語」講師:ヴィクトリア・エシュバッハ=サボー

日時:
2020.02.05 @ 17:00 – 18:30
2020-02-05T17:00:00+09:00
2020-02-05T18:30:00+09:00

東京カレッジ講演会「グローバルな学術言語としての日本語」が開催されました。
2020年2月5日(水)、東京カレッジ講演会「グローバルな学術言語としての日本語」が開催されました。小島毅教授(東京大学)の司会進行で、ヴィクトリア・エシュバッハ・サボー教授(テュービンゲン大学)の講演に続き、エシュバッハ教授と月本雅幸教授(東京大学)の対談が行われました。

エシュバッハ教授は、日本語をグローバルな学術言語として進化させることの利点や、日本語と他言語の間の言語文化的な結びつきを強めることの重要性を強調し、日本文化のもつ力を認識し、日本語をより積極的に進化させていくための展望を語りました。

エシュバッハ教授はまず、言語空間の概念および世界の言語地図のプロセスの枠組みの再設定・変化について説明しました。言語空間の概念は、社会方言、下町言葉、若者言葉、関西弁、関東弁、書き言葉、話し言葉といった派生語のように、言語間、あるいは言語内に存在する層の醸成として解釈され、ほかの言語から言葉を借りて使う借用語のように、ほかの言語との接触により言語に新しいスペースができると解説しました。このように私たちの言語空間の定義が同時並列的にあるとしても、それは決して標準語、または国の言語の統一を否定するものではありません。エシュバッハ教授は、標準語が18~20世紀に世界の様々な箇所で発明され、文化または行政の効果的な基準となる言語として使用されてきたことを説明し、言語空間という概念の中には言語にまつわる非常に複雑な認識が反映されており、言語は決して完璧で定型的なものではなく、社会のあらゆる構成員にとってダイナミックなプロセスであることを示すものであると述べました。


続いてエシュバッハ教授は、英語が共通学術言語として支配的な立場であることは一時的なもので、すべての言語は長期的には立場を変えていくと説明しました。その上で、日本語がスーパーセントラル言語のグローバルプレーヤーの一つを担うようになるまでの経緯について解説しました。世界の言語にはいくつもの共通点があるものの、それは語彙や表現による共通点であり、意味や価値観については独自のシステムが存在するため、言語空間をつなげるテクニック・手法が必要であると述べました。欧州と日本の言語空間がどのように繋がりをもつようになったのかについては、西洋と日本の歴史的な経緯に基づいて具体例を挙げ、明治時代に存在していた多様な日本語の言語空間において、西洋と日本を結ぶために漢字を使用した漢文による新しい言語空間が作られたことを解説しました。明治以降に発明された標準語も、グローバルな言語としての役割を果たしてきたと言います。これらの発明が欧州に逆輸入され、21世紀以降は欧州において経済からポピュラーカルチャーに至るまで日本の文化パッケージが広がりを見せ、生け花、寿司、空手など様々なものの影響を受けながら絶えず日本の概念や言葉と日常生活が結びついていると論じました。
また、エシュバッハ教授は国家と言語の関係性について述べ、国家の発展のためには言語の発展が必須であるとし、西洋と日本のコミュニケーションを発展させ、近代科学技術へのアクセスを提供し、英語のみを志向する方針から転換し、グローバル社会におけるニーズの変化へ対応していくことの必要性を主張しました。21世紀の進化の方向性について、創造的な知とアートの分野では言語の使用が言語の発展に繋がること、自然科学・科学技術分野においては、人間の知がAIというブラックボックスの中で繋がることが重要であると述べました。

講演後に行われたエシュバッハ教授と月本教授との対談では、国際学会での使用言語、現代社会の多文化共生に伴う日本語教育の変化や今後の日本語の辞書の出版等について、様々な角度から意見が交換されました。

 

終了しました
開催日時 2020年2月5日(水)17:00-18:30(16:30開場)
会場

東京大学 山上会館大会議室(本郷キャンパス)

申込方法 事前申込制(席数120。定員を超えた場合は立ち見となります)
言語 日本語・英語(同時通訳有)
要旨

日本語をグローバルな学術言語として進化させることには数多くの利点があり、日本語と他言語の間の言語文化的な結びつきを強めることは極めて重要です。日本文化のもつ力を認識し、日本語をより積極的に進化させていくことが、いま日本に求められています。

講師プロフィール

ヴィクトリア・エシュバッハ=サボー
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学にてドイツ・スラヴ・中国・日本学を学んだ後、ルール大学ボーフムにて東アジア学博士号を取得(1984年)。トリーア大学を経て、テュービンゲン大学日本学教授、またテュービンゲン大学同志社日本研究センター共同創設者・共同所長(1993年~)。ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)の日本語および日本語教育部門責任者を長年務め、2005~08年同協会会長。

主催 東京大学国際高等研究所東京カレッジ
お問い合わせ tcevent@graffiti97.co.jp

Upcoming Events

開催予定のイベント

暗黒の遺産に光を:日本における戦時外国人労働者の慰霊碑(講演者:Andrew GORDON教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年4月26日(金)14:00-15:30 JST

戦時外国人労働者の死を追悼する慰霊碑は、遺産に関連する「暗黒」(dark)という言葉の二つの意味を思い起こさせる。歴史上の悲劇的な出来事の追悼と、この歴史についてあまり知られていない、ほぼ隠されている慰霊碑の重要性である。2つの意味で「暗黒」であるこれらの場所で伝えられるメッセージは何か、検討する。

ホモ・サピエンスの起源と台頭(講演者:Jean-Jacques HUBLIN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月9日(木)14:00-15:30

人類の進化は、古代の系統の多様化によって特徴付けられており、さまざまなアフリカの集団が、ホモ・サピエンスの”現代的な”形態の出現を形成してきた。「緑のサハラ」時代に、アフリカの集団の移住が促進されたが、ホモ・サピエンスの拡大と環境要因はほとんど関係がない。ホモ・サピエンスの拡大により、現地の人口が入れ替わり、文化は大きく変容し、結果的に今日も世界の環境を形成し続けているヒトという唯一の種が広がったのである。

グローバルヒストリー史家のアーカイブとは何か?(講演者:Martin DUSINBERRE教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月10日(金)10:30-12:00

本講演では、アジア各地域と太平洋水域を航行した「山城丸」の軌跡を追いながら、19世紀後半、ハワイや東南アジア、オーストラリアで働くために日本を離れた移民たちの生活を革新的な視点から考察する。これらの物語は、入植者植民地主義、労働史、資源採掘に関する環太平洋の歴史研究を新たな方法で結びつける。本講演では、非伝統的な、実物性の高いアーカイブをもとに、グローバル・ヒストリーの記述における方法と記述者の立ち位置に関する重要な問題を取り上げる。

永久凍土を考える(講演者:Sabine DULLIN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月14日 (火)16:30-18:00

本講演では、居住する先住民コミュニティにとって自然で意味のある土地であった永久凍土が、いかに科学的問題として発見されたのか検討する。そして、21世紀初頭、ヤクーツクなど北極圏の準州における主権の模索において、永久凍土がどのように政治的意味を帯びたかを論じる。

「西洋」という虚構とその仮想的同一性:人類学的差異について(講演者:酒井直樹教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月17日(金)14:00-15:30

近現代世界の国際的な景観は、近世における「ヨーロッパ」の出現以来、人類学的差異への投資によって形成されてきた。ヒューマニタスとアントロポスを区別するこの差異は、事実的な規範というよりも、むしろ規制的な理念として人類の行く道を導く予期的なものである。それは、ヨーロッパ/アジア、西洋/東洋、白人/有色人種といった二項対立を統合し、複雑な帰属関係を育む。本講演では、ヨーロッパ文化、西洋文明、有色人種を排除した人種にみられる白人性のアイデンティティ・ポリティクスについて掘り下げる。しかし、真の帰属意識は依然として仮定のものであり、非ヨーロッパ的、非西洋的、非白人的なものとの対比を通してのみ実現される。

21世紀の中央銀行(講演者:Luiz Awazu PEREIRA DA SILVA教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月29日 (水)15:00-16:30 JST

21世紀の中央銀行は、5つの岐路に直面している(1. インフレとその不透明性の再現、2. 気候変動、3. 不平等、4. デジタル金融イノベーション、5. 人工知能)。これまで、中央銀行は課題に直面した際、分析的思考を強化し、適切にリスクを均衡させ、最善の道を選択してきた。現在、中央銀行が直面する新たな課題は、中央銀行がそれらの挑戦的な影響を慎重に特定し、分析する必要があることを示唆している。

日本における同族経営医療法人(講演者:Roger GOODMAN教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年5月30日(木)14:00-15:30

日本では、病院の約80%とクリニックの約90%が私立であり、これらのうち約75%が同族経営である。本講演では、日本の医療制度の運営全体の文脈における同族経営医療法人の発展と意義を説明し、先行研究でまだ明らかにされていない部分に注目する。

ザ・サロン ー 東大教授との対話シリーズ シーズン2

イベント予定対話/Dialogue

2024年6月7日以降毎週金曜日 順次公開(17:00以降視聴可能)

東大の文系の卓越研究者をゲストに迎え、東京カレッジの島津直子教授がホスト役を務める対談シリーズ新企画。専門分野の壁を超えた対話を繰り広げます。
収録はキャンパス内の某カフェで、コーヒーを片手に行われました。隣の席に座った気分で、分野の異なる専門家によるリラックスした会話に耳を傾けてみませんか?
今までにないゲストの新たな一面がみられる、魅力の新企画です。

Previous Events

公開済みイベント

デジタルフロンティアの強化:サウジアラビアのサイバーセキュリティへの道(講演者:Muhammad KHURRAM KHAN教授)

イベント予定共催/Joint Event講演会/Lecture

2024年4月24日(水)15:30-17:00 JST

本講演では、サウジアラビアが企業や個人をサイバー脅威から守るためのICTインフラの取り組みを紹介する。サイバーセキュリティ能力を再評価するサウジアラビアの取り組み、デジタルで安全な経済ビジョンへの投資、地域のリーダーとしてだけではなく、集団的サイバーセキュリティの世界的パイオニアとして自国を位置づけるための戦略的枠組みなどについて議論する。

日本と中国におけるモンテスキュー「法の精神」専制主義問題の受容(講演者:Anne CHENG教授)

イベント予定共催/Joint Event講演会/Lecture

2024年4月18日(木)14:00-16:00

モンテスキューの『法の精神』 (De l’Esprit des lois)から引用された最も有名な言葉のひとつに「中国は専制国家であり、その原理は恐怖である」がある。本講演は、現代の文脈に流されて結論を急ぐ前に、モンテスキューの思想と最も有名な著作が明治日本、そして後期帝政中国でどう受容されていたか考察することを提案する。

想像的体験としての博物館展示(講演者:Leslie BEDFORD教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年4月17日(水)10:30-12:00 JST

博物館は本来、訪問者のためのものであり、展示はユニークなコミュニケーション手段です。分極化が進むアメリカにおいて、展示はどのように多様な公衆の想像力と関わり、同時に人類共通の感覚にインスピレーションを与えることができるでしょうか?

財産権の剥奪は なぜ必要か(講演者:Frank UPHAM教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年4月15日(月)17:00-18:30 JST

世界銀行、アメリカ政府、そして事実上すべての学者が、「財産権は市場経済のインセンティブ構造の中心にある」、「自由で強固な市場は、財産権が尊重される場合にのみ繁栄することができる」という点で一致している。しかし、繰り返されてきた事例はその逆を意味する。急速な経済成長を実現し、成長がもたらす社会的利益を実現するためには、財産権は剥奪されなければならない。

ガンディーと(人権の)体制(講演者:Vinay LAL教授)

イベント予定講演会/Lecture

2024年3月25日(月)17:30-19:00

本講演ではLAL教授は、まず、西洋における「権利」の概念と権利に関する語りの概念の変遷、また、権利に関するガンディーの考え方、権利の概念に関する彼の哲学的、倫理的、政治的疑問、そして人新世に対する彼の予見について説明する。

国際女性デーイベント: 芥川賞受賞作家 村田沙耶香氏を迎えて

イベント予定対話/Dialogue講演会/Lecture

2024年3月18日(月)17:00-18:30 JST

東京カレッジ ジェンダー・セクシュアリティ・アイデンティティ共同研究会は、芥川賞受賞作家 村田沙耶香氏を迎え、国際女性デーを記念したウェビナーを開催します。 小説「コンビニ人間」(2016)で第155回芥川賞を受賞した村田氏に執筆経験やインスピレーションについて聞き、社会におけるジェンダーとセクシュアリティの規範、またそれらが私たちの世界をどのように形作っているのかについて再考します。


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